研究実績の概要 |
Transforming growth factor-β(TGF-β)シグナルは、細胞の増殖やアポトーシスなど多くの生命現象に関与する.本研究では,新規なTGF-βシグナル制御法の開発を目指して,(1)TGF-βシグナル下流のリン酸化タンパク質であるリン酸化Smad2認識分子の創製,および(2)TGF受容体の翻訳後修飾糖鎖に注目したシグナル制御法の開発,を検討した. (1)TGF-βシグナル下流のリン酸化タンパク質であるリン酸化Smad2認識分子の創製 TGF-βシグナル下流には複数の伝達経路が存在している.本研究では,Smad2のリン酸化を伴うシグナル伝達経路に着目し,この経路を選択的に制御する分子の創製を目指した.動的コンビナトリアルケミストリーの手法を応用した“鋳型誘起合成”により,リン酸化Smad2のリン酸化配列を認識する分子を創製した.等温滴定型熱量計(ITC)を用いた測定により,得られた化合物は鋳型を認識し,その解離定数は10 μM程度であった.さらに,鋳型との親和性向上を狙い,得られたペプチドをの環化によるし,配座固定の固定を検討した. (2)TGF受容体の翻訳後修飾糖鎖に注目したシグナル制御法の開発 N-結合型糖鎖(N-グリカン)とはタンパク質のアスパラギンに結合した翻訳後修飾糖鎖で,還元末端のグルコサミンにα1,6結合で連結したフコースをコアフコースという.TGF-β受容体(TβRII)中のN-グリカンからコアフコース構造を除くとは糖鎖による翻訳後修飾を受けており、この糖鎖が“コアフコース”構造を持たない場合、受容体その活性が大きく低下する.本研究では,コアフコース認識分子を創製し,これを用いた新規TGF-βシグナル制御法の開発を検討した.加えて,コアフコースの生合成酵素であるFUT8の阻害剤の開発も行い,数μM程度で阻害活性を示す化合物を得た.
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