様々ながんで高レベルに発現し、治療抵抗性の主な原因の1つと考えられているアポトーシス抑制タンパク質Survivinの阻害剤を取得することが本研究の当初の目的であった。昨年度までに、化合物アレイを用いたSurvivinリガンドのスクリーニングの過程で発見したα-クロロアセトアミド化合物NPD926ががん細胞にアポトーシスを誘導すること、さらにがん細胞のSurvivinと結合することを見出し、この化合物がSurvivinの機能阻害活性を有する可能性を考えて検証した。しかし、その後の詳細な解析により、NPD926の細胞死誘導活性の主な作用機序はSurvivinの阻害ではなく、細胞内グルタチオンとの結合、グルタチオンの枯渇により引き起こされる活性酸素種(ROS)の産生であることが明らかとなった。NPD926はがん遺伝子KRASが活性化した細胞に対して選択毒性を示すなど、がん治療の観点から活性が非常に興味深かったため、本年度もさらなる解析を行った。その結果、スルファサラジンなどのシスチントランスポーター阻害剤やグルタミン代謝阻害剤の殺細胞効果を高めるなど、NPD926にはがん細胞の代謝を調節する活性があることを見出し、がん治療におけるROS産生誘導化合物の有用性を示すことができた。化合物アレイにより見出したNPD926以外のSurvivinリガンドが、Survivinの機能を阻害する可能性については、今後も検証していく予定である。
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