本研究は,近年中枢神経疾患の病態との関わりが注目される拡延性脱分極の発生を光イメージングし,これを近赤外光照射により制御しうるか,動物モデルを対象に調べることを目的とした。近赤外光を一定条件で照射すると,ミトコンドリアの電子伝達反応が促進され,ATP産生が増大する効果があることが知られており,これを脱分極制御に応用することを着想した。 1.ラット脳低酸素モデルを用いた無酸素性脱分極(Anoxic depolarization: AD)の光制御・抑制効果の検証 ADは,エネルギー欠乏が最も重篤な条件で起きる拡延性脱分極であり,その抑制には相当のエネルギー供給が必要と考えられる。初年度,ラット脳低酸素モデルを対象に経頭蓋骨的拡散反射光イメージングを行い,ADの発生を示す光散乱変化の波の発生が近赤外光照射(波長808 nm,パワー密度 7.5 mW/cm2)により抑制されるか調べた。その結果,光照射により脱分極の発生が遅延ないし縮小する傾向は見られなかった。そこで次年度(最終年度),エネルギー低下レベルが場所により異なる局所脳虚血モデルを対象に検討を行った。 2.ラット脳梗塞モデルを用いた梗塞周辺脱分極(Periinfarct depolarization: PID)の光制御・抑制効果の検証,および梗塞面積への影響調査 虚血後90 min間のPIDの発生回数は非照射群で9.4±5.0回(平均±SD,n=5),総数47回であったのに対し,光照射群では5.8±1.6回(n=5),合計29回と低下し,統計学的有意差は見られなかったもののPIDの抑制傾向が観測された。一方,脳血流は光照射群で増加傾向を認められなかったが,翌日評価した梗塞領域は光照射群で縮小傾向にあった。これらの結果は,低出力近赤外光照射が,梗塞周辺脱分極の抑制と梗塞縮小に一定の効果を有することを示唆するものと考えられた。
|