ヒトは、自らが有する高度な社会性を活かして、他の個体と助け合いながら社会的な集団の中での生活を送っている。このような他の個体を助ける援助行動においては、相手の立場に立ち、相手の感情や意図を理解する共感能力によって実現されていると考えられる。本研究では、共感によって惹起される援助行動の神経基盤を明らかにすることで、どのような共感機構により援助行動が遂行されているかを確認することを目的に実験を実施した。 今年度はfMRIを用いた実験を通じて、援助行動の神経基盤として、援助対象者が援助を受けることで感じる喜びを予測しそれに共感するという共感的喜びに加えて、他者の苦境による共感的痛みの減弱が重要であることを示した。この成果は、Social Neuroscience誌に掲載された。さらには、援助を受けること自体が喜びとして腹側線条体の活動として表象されることから、共感的喜びの前提となる援助対象者の神経基盤についても確認した。この成果はScientific Reports誌に掲載された。 これらに加えて、共感を重要な一要素として含む傾聴の神経基盤、および、共感を増強する要因である親密度の社会的認知の神経基盤についても本研究期間内で成果をあげた。こうした成果により、共感によって惹起される援助行動の神経基盤を統合的に明らかにすることができた。 本成果は、ヒト社会性を支える重要な社会能力である共感を対象としたものであり、ヒトの高度な社会がいかに形成されているかという点についての示唆を与える研究である。よって、社会神経科学だけではなく、教育、組織マネージメントなどの様々な分野で応用可能な成果であるという点からも重要性が高い研究成果である。
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