研究課題/領域番号 |
25760002
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
高岡 豊 東京外国語大学, 外国語学部, 研究員 (10638711)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 「イスラーム国」(IS) / 宗派 / シリア紛争 / 部族 / 議会 / 選挙 |
研究実績の概要 |
平成26年度はイラクで国会議員選挙が行われたため、最新の選挙で選出された議員の名簿を作成した。また、選挙の実施に備えてイラクの部族についての辞典・名鑑類を調達して、個々の議員の地縁・血縁的背景についての調査を進めた。イラクでは、2014年6月以降「イスラーム国」の攻勢が激化し、これへの対応が重要な課題となったが、「イスラーム国」の活動地域に居住する諸部族がイラクの政治体制やその中での権益の配分に不満を持ち、「イスラーム国」を利用するかのようにして権益の拡大を図った部族や政治勢力が存在したことが指摘されている。実際、「イスラーム国」はイラクにおける勢力回復のため、地元の諸部族の権益と共存可能な形で利権の奪取を図ったり、イラク政府と諸部族との不和に乗じて支持の拡大を図ったりしていたことが明らかになった。 レバノンにおいては、隣国シリアでの紛争の影響を受けて治安が悪化したが、シリア紛争に深く関与するヒズブッラーに対するレバノン人の態度について分析した。一般には、シリア紛争の当事者となったことによってレバノン人のヒズブッラーに対する支持は低下したと考えられているが、シリア人難民の流入やレバノンでの治安悪化により、秩序の維持・回復を担う主体としてヒズブッラーに対する支持や期待は保たれている傾向が明らかになった。 「イスラーム国」に関連して、外国人戦闘員の流入が世界的な問題となった。従来国際的に活動するイスラーム過激派組織に外国人が参加するためには、戦闘員自身の血縁関係や、組織に合流するための手引きをする地元の地縁・血縁集団などとの関係が重要だった。しかし、近年「イスラーム国」に合流した者の中には、ヨーロッパ出身者など「イスラーム国」のが活動するシリア・イラクと全く縁のない者や、インターネット上でのやり取りのみに依拠して合流までの旅程を歩む者も多数いることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
26年度は、イラクの政治・社会における部族の役割についての情報交換・資料収集・研究拠点の構築のためヨルダンへの出張を予定していたが、出張予定時期が「イスラーム国」による邦人殺害事件と重なったため出張の見送りを余儀なくされた。その一方で、本研究の関心分野で研究活動を行う研究者や機関のうちヨルダンのアンマンで活動するもの複数との接触や協力の取り付けを達成し、アンマンに拠点を構築するという目標を最低限達成できた。 また、「イスラーム国」についての報道や研究業績が多数発信されたため、その中から本研究に関連する資料・情報を得ることができた。 チェコ共和国科学アカデミーで開催された国際会議にてシリアの部族や宗教家の政治参加の実態について報告を行った。会議への出席を通じ、おもにヨーロッパ諸国で活動する研究者とのネットワークの構築や最新研究動向についての情報交換を行うことができた。
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今後の研究の推進方策 |
27年度は本研究事業の最終年度にあたるため、成果の発信に重点を置く。発信の場としては、日本中東学会、英国のセントアンドリューズ大学シリア研究センターを予定している。シリア、イラクでの現地調査は引き続き困難であるため、研究のさらなる発展のためレバノン(ベイルート)、アンマン(ヨルダン)での情報・資料収集の方との確立、研究の拠点の構築を図ることによって対処する。
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次年度使用額が生じた理由 |
25年度、26年度の成果を発信する活動を重視し、国内外で研究報告を行う。また、イラク、シリアを中心に引き続き資料・情報の収集を行い、これらを基に名簿の更新を進める。現地、ないしはその隣接地での調査や研究体制の構築・発展のための出張を行う必要がある。また、インターネットを通じて発信される動画にも本研究に必要な資料が含まれているため、技術的な環境変化に合わせた機材の更新の必要が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
成果発信活動のため、国内外(国外1回、国内3回程度)の出張を行う。国外での報告(英語)を行うため、校正費用などを支出する。アラビア語資料の収集と議員名簿の整理・更新を継続するとともに、現地調査(1~2回)を実施する。動画に含まれる情報を資料として活用するための機材を整備する。
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