研究課題/領域番号 |
25760003
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
星川 圭介 京都大学, 地域研究統合情報センター, 助教 (20414039)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 洪水 / チャオプラヤー川 / 利害調整 / 農村 |
研究概要 |
平成25年度は当初の予定通り衛星画像データを用いた氾濫域の分析,水路・河川の流量データの解析,および対象地域であるチャオプラヤーデルタ農村部での聞き取り調査を実施した. 聞き取り調査はアユッタヤー,スパンブリー,チャイナート,ウタイタニー県内12の行政区(もしくは村落),灌漑事業事務所2カ所,郡農業事務所1か所において実施.その結果,過去5年間程度の間に雨季1期作から非洪水期2期作への変化が洪水常襲地域に共通して生じており,洪水による稲作被害や水田からの排水を巡る争いが生じにくくなっていること,灌漑局が進める灌漑排水施設整備がそうした稲作変化を誘導しえていることが明らかになった.ただしこうした洪水常襲地に適応した稲作は,政府による籾米担保融資制度が米価を高値安定させてきたことに依存する面も大きく,同制度行き詰まりによる米価低迷が洪水対応を巡る状況を不安定化させる可能性も同時に示唆された. ターチーン川を通じたチャオプラヤー川超過流量の排水を巡って2011年洪水時に生じた上流チャイナートと下流スパンブリーの争いについては,地域住民がスパンブリーを地盤とする有力政治家の介入を強く信じている実態が明らかになったが,水門の開閉記録分析の結果からは必ずしもその影響は確固としたものではないことが示された. また衛星画像による冠水範囲の解析の結果,スパンブリー県南部やアユッタヤー県西部といった洪水常襲地域の農地の冠水状況は大洪水年である2011年と2010年をはじめとする中規模洪水年と大きく変わらない一方で,チャイナートやアーントーンといった比較的冠水しにくい県で2011年には広い冠水域が生じていることが明らかになった.これは大洪水時における「水の押し付け合い」はこれら非洪水常襲地域の冠水に起因することを示唆するものである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請時の計画では平成25年度にアユッタヤー県バーンバーン郡内2行政区(タンボン)を対象とした聞き取り調査を実施する予定であった.これに対して初期の現地調査の結果,各行政区内の状況がかなり均質であることが判明したため,調査対象行政区を増やし,調査対象の空間範囲を拡大することとした.バーンバーン郡内においては4行政区で行政区職員や村長に対する聞き取り調査を行った他,周辺地域であるアユッタヤー県セーナー郡,パックハイ郡,スパンブリー県パークナーム郡,プラーマー郡,チャイナート県サンパヤー郡,ウタイタニー県ムアン郡などの行政区でも補足的な聞き取りを実施した. 衛星画像解析,流量データ等の解析についても計画通りにこれらを実施し,過去の洪水の状況分析を行った. 以上の通り聞き取り調査については対象範囲の若干の拡大を行ったものの,概ね交付申請書記載の計画通りに進捗している.
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今後の研究の推進方策 |
交付申請書記載の通り,現地調査を中心とする活動を継続する.申請時の計画ではチャオプラヤーデルタの2行政区,デルタより上流の2行政区,計4行政区を対象に聞き取り調査を実施する予定となっており,今後は上流の2行政地区を対象とした聞き取り調査を実施する.また,すでに聞き取りを行ったデルタの行政区についても補足的な調査を行うほか,デルタより上流においても必要に応じて交付申請書に記載した以外の行政区でも聞き取り調査を行う.聞き取り調査を通じて明らかにするのは次の3点である.(1)毎年水田が冠水する地域と大規模洪水年にのみ水田が冠水する地域における稲作(暦,収支,技術)および洪水対応の違い.(2)現場における水門開閉の意思決定過程.(3)米価低迷に対する農民の受け止め方. また衛星画像や流量・雨量についてもより詳細な解析を進め,聞き取り結果との統合を行う. 以上により,平成27年度末の時点においてタイ政府が進める新治水政策がチャオプラヤー流域の水利秩序をどのように変えつつあるのか,その方向性を提示する.
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次年度の研究費の使用計画 |
為替の変動等による現地調査費用(車両代,燃料代)や航空運賃などの値上がりを考慮した予算執行を行った結果,若干の残余を生じることとなった. 繰り越し分は旅費や現地謝金として執行する.
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