研究課題/領域番号 |
25760008
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 文教大学 |
研究代表者 |
渡邉 暁子 文教大学, 国際学部, 講師 (70553684)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | フィリピン / イスラーム改宗 / 女性 / 海外就労 / 婚姻 / 重層的力関係 / 差異 / 社会再編 |
研究概要 |
本年度、フィリピンに2度渡航し、延べ21日の調査を実施した。主に、サウジ人が設立したイスラミック・センターとフィリピン人イスラーム改宗者が集住する地域において、単身者、国際結婚者、民族ムスリムとの結婚者、同じフィリピン人イスラーム改宗者との結婚者、合わせて24名を対象とし、彼女たちの実践や自己認識の変化について聞き取りをおこなった。 その結果、湾岸諸国でイスラームに改宗しフィリピンに帰国した女性たちが、さまざまな方面から、好意的に、もしくは否定的に認識されるなかで、その存在を成り立たせていることが明らかとなった。つまり、イスラーム改宗者は、国際的なムスリム・ネットワークに取り込まれて、イスラミック・センターや布教活動家から手厚いケアを受け、同胞の改宗者と信仰実践や経済的生活について互いに支え合っている。一方で、フィリピン政府からは常に嫌疑の目を向けられるために、それを払拭することを余儀なくされている。民族ムスリムからは「遅れてきたムスリム」「系譜をたどることができない者」とみなされ、また宗教実践について「うるさく言う人たち」と煙たがられることもあるため、かれらから距離を置いたり、かれらと付き合うときには尊重しなければならない。周囲のキリスト教徒に対しては、自分たちが、分離独立運動をおこない、否定的なイメージを有してきた民族ムスリムとは異なる存在であることを示しつつも、友好的に付き合うことが求められている。 こうして、多様な他者と個別に関係が構築されていくなかで、集団としてのイスラーム改宗者という存在がかたちづくられてきた。こんにちでは、特定の地理的集住地域や共通の母語を持たずとも、14番目の「民族」のバリック・イスラームとしてフィリピン・ムスリム社会に組み込まれていることが示され、また、かれらがフィリピン・ムスリム社会の脱民族化とアラブ化を生じさせていることも検討された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、目的としていた重点フィールド調査をおこない、それを基にした2本の論文の発行(予定)、また4本の学会発表をおこなった点では、おおむね順調に進展している。 しかし、校務との関係で予定していた短期フィールド調査をドバイでおこなうことができなかった。そのため、フィリピン人女性が就労し現地でイスラーム改宗するという点で類似するシンガポールにおいて予備的調査を実施した。ただし、シンガポールと湾岸諸国の置かれているフィリピン人イスラーム改宗者の立ち位置の違いを理解することができた点は、今後の調査研究を進めていくうえで対象者の置かれている状況を理解する一助となった。
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今後の研究の推進方策 |
上記を踏まえ、平成26年度では、1回の海外調査研究の期間が短縮されたとしても、これまでに培った研究協力支援者との関係を維持しながら、円滑に調査研究を進めていけるよう、入念な準備をしたうえで臨んでいく。
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