本研究は、イスラームに改宗したフィリピン人女性の事例から、改宗が単なる個人の信条や教義の受容ではなく、社会の主流派から少数派への転換、汎アラブ的価値観の受容、民族間のダイナミクスへの包摂等、個人が重層的な力関係に置かれることを試みた。この関係は、フィリピンの歴史および西欧メディアを発祥とするイスラームに対するイメージや、エスニシティ/ナショナリティのパワー・バランスによって影響を受けるものであり、宗教や地域的親和性などの経済的要因以外にも、結合を引き起こす要因があるという点を明らかにした。また、改宗者により、フィリピン・ムスリムというエスニック境界が問い直されている点も指摘した。
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