研究概要 |
シャロンからデカルトにかけて、「人間」についていかなる考察と言説がなされたのか(なされなかったのか)、この人間学的な問いに哲学史的な観点から検討を加える、という本研究の基礎作業として、初年度は、シャロン関係文書の収集・読解・検討に集中して取り組んだ。具体的な研究成果は以下の通りである。 1/シャロンとデカルトの一次文献に関して、概念上・主題上の対応関係を指摘しうるテクストの選択・確定を多くの二次文献に依拠しながら行った。とりわけ、M. Adam, Ch. Belin, D. Kambouchner, J. Maia Neto, R. Popkinらによる先行研究を集中的に分析した。2/テクスト上の対応関係についてその位置情報と文脈とを示すコンコーダンス(これは、従来の哲学史研究に照らして新資料として位置付けられる)の作成を開始した。その際に、用語別索引の手法ではなく、主題別索引のそれを採用することで、政治論的人間学と道徳論的人間学という二つの問題構制の設定が本研究にとって有益であることを確認した。3/以上の基礎作業を通して本年度は、とりわけ後者の問題構制に含められる諸問題のうち、シャロンにおける「意志」について集中的に検討した。とりわけ、「真の誠実さ」を「理性の命令に従う、意志の真っすぐで堅固な意志の態勢」(De la sagesse, II,3)と定義するシャロンの発想に、意志作用に関するデカルト的な雛形を認定することが決定的に重要であるとの認識を得た。前者の問題構制に含められる諸問題については、モンテーニュ『エセー』第3巻13章をうけた『知恵について』第2巻8章における政治的順応主義への言及が、デカルトの『方法序説』第3部における政治論的人間学に何らかの影響を与えたのではないかという見通しを得た。
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