研究課題/領域番号 |
25770009
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
豊田 光世 東京工業大学, グローバルリーダー教育院, 准教授 (00569650)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 市民参加 / ガバナンス / インフラ整備 / 多元的価値認識 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、環境ガバナンスを地域住民の参画のもと進めていくうえで、「自然環境保全と資源管理における各主体のモラルの尊重」と「共有可能なルールの構築」をいかに実現するか、環境倫理学的な視点から課題を明らかにすることである。 これまで、新潟県佐渡市加茂湖の環境保全の事例を中心に調査を進め、市民主導型の保全においてどのような課題が生じているか(生じる可能性があるか)について整理をしてきた。H26年度は、佐渡島の事例に加え、多様な条件のもと進められている事例について現状と課題を調査し、異なる空間的・社会的規模の事例の比較を行った。九州、近畿、東海エリアで行政機関が主導的に進めている事業において、いかに市民参加のプロセスを構築し、地域環境の維持管理を目指そうとしているかを調査した。 また、今年度は歴史的インフラ整備の事例として、行基(668-749)と角倉了以(1554-1614)についての調査も行った。政府主導の事業を市民参画によって真の公共事業へと発展させた行基と、企業の力で公共事業を進めた角倉了以の思想と実践から、現代の環境ガバナンスに生かせる視点を考察した。 どのように公共善を個人のインタレストと合わせて定義づけていくかが重要であり、そのために多様な価値を包括する思想やしくみを発展させる必要がある。「持続可能性」という一見したところ公共性の高いコンセプトでさえも、後継者不足・少子化などの問題によってその価値が実感できなくなっているという現状を踏まえ、価値の共有と深化の場づくりを進めていくことが、ガバナンスの基盤づくりにつながる。さまざまな倫理的課題を踏まえて何らかの実践的成果を生み出していくうえで、対話や合意形成といったコミュニケーションは不可欠である。本研究の成果は、佐渡島での環境保全に向けた合意形成、ならびに宮城県仙台市で進めている子どもたちの対話力教育につなげ、社会還元を図っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
他地域の事例調査を進めることで、主な研究対象地域である新潟県佐渡市での環境ガバナンスに関する課題やアプローチの特徴が明らかとなり、考察を深めることができた。調査した事例は、行政主導の市民参加、行政と市民の協働、市民の草の根活動と、タイプが異なるため、環境ガバナンスの多様な形態を踏まえて課題やメリットを整理・分析することができた。また、歴史的なインフラ整備事業の調査では、当時の人びとのwell-beingをいかにして実現していくかという観点が充実していることで、参加者の輪が広がっていることや、長い時を超えて現代の人びとの福祉にも大きく貢献していることが確認できた。包括的視点で公共事業を進めていくことの重要性を再認識することにつながり、また、日本の文化や風土に根ざしたガバナンスというものを考えていくうえで鍵となる視座を得るに至った。 研究成果の社会還元は、佐渡島で進めている市民主導型環境ガバナンスや、宮城県仙台市で進めている子どもたちの対話教育などを通して行っている。後者の成果については、The American Philosophical Association Eastern Divisionで報告した。
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今後の研究の推進方策 |
蓄積された多様な事例のデータについて「モラルの課題」と「ルールの構築」を軸に分析を行う。新潟県佐渡市の事例については、引き続き実践的立場から事業推進のプロセスを構築し、社会的・倫理的諸課題を整理する。他地域の調査については、これまでの成果を佐渡市の事例との比較において掘り下げながら、必要があれば追加調査を行う。 最終年度にあたるため、研究成果のまとめと発信、特に国外での成果共有に重点を置いて研究を進める。Carnegie Council for Ethics in International Affairs、Oxford Uehiro Center for Practical Ethics、公益財団法人上廣倫理財団共催の国際シンポジウム(10月開催)にて、本研究の成果の一部を発表する予定である。また、主な調査フィールドである新潟県佐渡市では、研究成果を地域に還元するための市民向け研究会を開催する。また、研究成果は小冊子等にまとめ、共有を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度から研究協力をお願いしているAlban Mannissi氏の来日について、別途研究交流の機会を得たため、本助成から謝金等の支払いが不要となり、残額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
現地調査、国内での研究成果の発信のほか、海外での研究成果発表を充実させるために助成金を使用する。
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