本研究の目的は、地域住民参画による環境ガバナンスにおいて、「自然環境保全と資源管理における各主体のモラルの尊重」と「共有可能なルールの構築」をいかに実現するか、環境倫理学的な視点から課題を考察し、ボトムアップの環境保全・自然再生事業を支えるための理念を明らかにすることである。本研究では、新潟県佐渡市の加茂湖流域で環境ガバナンスの主体形成と実践を進め、また、他地域の事例の比較調査を通して、考察を進めてきた。実践的な成果として、加茂湖の保全に向けた協働のプラットホームの強化と、流域集落で始まった住民主導型防災地域づくりがある。この地域づくりは、70-90代の高齢者が中心となって進めたもので、高齢化が進む社会での持続可能なまちづくりのモデルとして、EcoJapanCupや市民普請対象などで評価された。実践活動の深化によって、ガバナンスの理論の考察も具体的な成果にもとづくものとなった。 最終年度である平成27年度は、主要研究フィールドである新潟県佐渡市加茂湖流域の環境ガバナンスに中心的にかかわってきた地域住民を対象にヒアリング調査を行い、これまでの実践成果をふりかえりながら、ボトムアップで公共空間を保全していくことの意義と、その過程で直面する課題について整理、分析した。 地域環境の持続的な保全に向けてボトムアップの取り組みが益々重視されるなか、実践的成果へとつながる研究を生み出すためには、成果を研究者間だけでなく、行政、市民等に対しても広く共有することが望ましい。こうした考えのもと、成果を小冊子としてまとめ配布した。この冊子では、加茂湖流域だけでなく、他地域の事例も参考に、現場で見えてくる課題について「多角的価値認識の意義」「私有と公有の問題」「風景のコモンズ化」「保全の主体形成」「オーナーシップの獲得」という5つの視点から考察した。
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