昨年度までに引き続き、本年度も、自由意志と責任にかんする実験哲学研究および実験哲学研究の意義にかんするメタ哲学研究という二つの課題について研究を進めた。 第一の課題については、昨年度までに実施した質問紙調査のデータ分析を進めるとともに、自由意志の問題を論じるうえで重要な役割を果たす他行為可能性概念について、その内実を明らかにするための質問紙調査およびそのデータ分析を実施した。これまでの質問紙調査のデータ分析によれば、日常的な行動についての責任評価や賞賛・非難において、自由意志概念はつねに重要な役割を果たしているとはかぎらない。しかし、それらの判断と他行為可能性にかんする判断のあいだにはしばしば高い相関が見られ、われわれは、自由意志という概念にはなじみがないが、それに相当する概念を日常的に用いているとも考えられる。今年度に実施した質問紙調査では、ここで問題となる他行為可能性とは、具体的にどのようなものであるかを明らかにすることを目指した。調査の結果、多くの人は、行為者の心的状態や環境に違いがあれば別の行動をとることが可能であったと考えるが、行為者の心的状態・脳状態と環境がすべて同じだとしても別の行動をとることが可能であったと考える人は少数であるということや、後者の強い他行為可能性を認めるかどうかは、具体的な行動の評価や自由意志にかんする一般的な信念とは相関を示さないことが明らかになった。成果の一部は日本科学哲学会2015年度大会のワークショップで発表され、現在論文化中である。 第二の課題については、昨年度に中部哲学会で行った研究発表をもとに執筆した論文「哲学における直観の信頼性」の『中部哲学会年報』への掲載が決定した。また、第一の研究成果をもとに、哲学的な自由意志論を一種の概念工学と捉える見方について検討し、上記のワークショップで発表した。
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