研究課題/領域番号 |
25770016
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
土屋 太祐 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (20503866)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 中国仏教 / 禅 / 雪峰 / 玄沙 / 法眼宗 / 華厳思想 / 圜悟 / 『碧巌録』 |
研究実績の概要 |
1「大慧宗杲における華厳と禅―雪峰集団における華厳思想の受容とその宋代禅への影響」では、唐末五代の福建に存在した雪峰教団における華厳思想の受容からはじめて、それらの思想が宋代禅の大成者である南宋の大慧まで、どのように伝えられていったかを考察した。これまでも雪峰教団の分裂と思想的対立について研究を行ってきたが、そこでは、以下の二つの問題に対する考察が不十分であった。ひとつは、玄沙がその師である雪峰の思想を批判するのはなぜかという問題であり、もう一つは玄沙―法眼の系統に華厳思想の影響が色濃く見られるのはなぜかという問題である。一つ目については、雪峰の思想が、玄沙の思想体系において、当時すでに広く批判の対象となっていた馬祖洪州宗の思想と同一視されていることを指摘した。さらにこの問題について、雪峰とその弟子たちが、馬祖に対する批判を知りながら、それを超える視点を獲得していなかったことを指摘した。二つ目の問題については、個人に属する見聞覚知を媒介として個人内の仏性と現象世界を結び付ける雪峰の思想を克服するため、玄沙が華厳の事事無礙的観点を導入して、個別性を超越し、世界に充満する仏性の中で個物が個物として円成する世界観を提唱しようとしていることを指摘した。これは唐代の禅宗で行われた思想的葛藤の最後を飾るものであり、宋代に入るとこれらの主題は全く異なった文脈の中で、無事禅やあるいは単純な論理として乗り越えられていくことになる。 2研究会における会読の成果として「『一夜碧巌』第二則訳注」を発表した。第二則では、上に見える華厳思想や無事禅に関わる議論も見られる。宋代の禅思想がある程度成熟してきた時期の作品であり、その中に唐代から宋代へと続く思想的発展の形跡を見ることができ、重要な資料であると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
雪峰教団における集団の分裂とその思想的背景について、よりくわしく状況を解明することができた。また、法眼宗に華厳思想の影響が顕著に見られることは、これまでも常識としてしばしば言及されていた。しかしその実情についての詳しい研究は行われていなかった。本研究によりその一端が解明されたものと考える。これらは、唐代禅の最終段階であり、かつ宋代禅の出発点となったものである。宋代禅思想の形成に関する考察に理論的な基礎を与えるものと考える。 今後解明すべき課題としては以下の諸点を挙げうる。まずは、玄沙―法眼系統の人々が華厳思想の影響を受けた具体的な経路がまだ不明であるという点である。一口に華厳思想と言っても、各時代、各思想家によってそれぞれ異なる思想的特徴を持つ。玄沙や法眼が具体的に、どのような思想家・典籍の、どのような思想を導入したのか、研究する必要がある。また、宋代独自の禅思想の展開についての考察が不十分であると考える。とくに、排仏思想など、禅宗の外部から受けた思想的影響については、昨年度の研究である程度考察を進めることができたが、全面的な解決を見ていない。さらには、宋代禅の大成者と目される大慧の思想の倫理的特徴についても十分な研究ができていない。これらを今後の課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
禅思想に対する華厳思想の影響をより明確にするために、まずは華厳典籍自身に関する研究を進め、同時に唐末五代の中国南方における華厳典籍の流通状況を調査する必要がある。もっとも直接的な考察対象としては、禅籍内に引用される華厳典籍であるが、これについては、鎌田茂雄『禅典籍内華厳資料集成』(大蔵出版、1984)が最初の手がかりとなるものと考える。また、『法眼録』やその他の禅籍における引用を調べることで、その不足を補うことができ、ここからさらに、重点的な考察の対象となる華厳典籍を絞り込んでいくことが可能と考える。 また宋代禅に対する外部の思想の影響については、宋初の排仏思想を整理する必要がある。『朱子語類』巻一二六・釈氏には、宋代排仏論に関係する種々の論点が示されており、手がかりとすることができる。とくに北宋代に行われた、輪廻説に関する批判、仏性と倫理の関係に関する批判などは、今後、より具体的に考察する必要があると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
最後の国内出張が3月であったため次年度使用額とされている。
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次年度使用額の使用計画 |
4月中に支払われる予定である。
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