本研究は、大谷大学図書館所蔵の文献に収められている、『中辺分別論』のチベット人による註釈写本を研究対象とし、当該写本の読解に主眼をおいている。古代インドにおける仏教大家の世親が註釈をなした『中辺分別論』は、安慧のサンスクリット復註が現存し、それに基づいて、現在では唯識思想の研究が盛んに行われている。 しかし安慧釈の写本は右側3分の1が欠損していることから、文脈の意味内容を把握した上で、チベット語訳からサンスクリットを想定することが必須である。このことから本研究では『中辺分別論』の内容理解の一助となる当該写本の読解を行った。そして、それによって著者問題や唯識思想展開の課題が明らかとなった。
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