2015年10月にルール大学のザントカウレン氏を招聘し、一橋大学の加藤泰史氏と大河内泰樹氏の協力のもとに二つの講演会とシンポジウムを開催した。ザントカウレン氏の最初の講演「ヘルダーとヤコービのスピノザ論争と、カント以後の哲学におけるヘルダー受容に対するもろもろの帰結」では、ヘルダーとヤコービの論争関係がドイツ古典哲学の展開にもたらした意味が明らかにされた。ヤコービは『スピノザ書簡』第二版でヘルダーが『神』(1787)で述べたスピノザ理解を批判したが、シェリングやへーゲルは、ヤコービによる批判のインパクトを十分に意識していたのである。さらに、大河内氏との共催により「ドイツ古典哲学研究の新段階」と題したシンポジウムも開催した。最初に、私も含めて日本側の研究者から、ヘーゲル、ヤコービ、シェリングに関する研究報告が行われ、その後、ザントカウレン氏から「ヘーゲルにおいて個人はどれほど現実的か――スピノザ実体概念との対決」と題する第二の講演が行われた。このシンポジウムは、国内外のヤコービに関心をもつ研究者が一同に会する機会となり、国際的な研究者交流という観点でも有意義であった。 研究論文としては、昨年度の日本ヘーゲル学会での発表原稿が『ヘーゲル哲学研究』に投稿論文として掲載された。この論文では、『精神現象学』良心の章がヤコービの哲学小説『ヴォルデマール』のプロットから影響を受けているという従来からの解釈を検討し、その妥当性を確認した。他にも、ハイデルベルク期以降のヘーゲルによるヤコービ再評価が宗教的文脈のうちにあったことを指摘した。ヤコービは三つの大きな哲学論争に関与したが、7月に一橋大学で開催された第三回スピノザコネクションでは、汎神論論争でのヤコービとメンデルスゾーンの論争点について報告した。以上の研究成果により、ヤコービの論争上の位置づけが明らかになった。
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