研究課題/領域番号 |
25770036
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
西田 紘子 九州大学, 芸術工学研究科(研究院), 助教 (30545108)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 音楽理論 / 音楽分析 / ハインリヒ・シェンカー / 演奏法 / リズム / 指使い |
研究実績の概要 |
本研究は、ハインリヒ・シェンカーやその周辺の音楽家による音楽理論・分析や、それ以降のシェンカー理論・分析を通史的に考察することを目的とする。2年目である平成26年度では、3つの調査を行った。第一に、戦後アメリカにおけるいわゆる「シェンカー分析」の代表的な理論家の言説に焦点を当て、その思想的特徴を明らかにした。第二に、前年度に引き続き、シェンカー自身の理論・分析のうち、これまで採り上げられることのほとんどなかった指使いと演奏法の関係について、シェンカーの書簡や楽譜校訂から考察を行った。第三に、シェンカー周辺の同時代の理論家として、ドイツの音楽理論家グスタフ・ベッキングのリズム論に目を配った。 一点目の、戦後アメリカの「シェンカー分析」については、リズムのパラメータに着目し、代表的な音楽理論家カール・シャクター、ウィリアム・ロートシュタイン、フランク・サマロットの3人のシェンカー受容と理論構築を辿って〈構造的リズム〉の諸特徴を明らかにした。いっぽう、論者独自の視点として、日本での翻訳と受容が進みつつあるシェンカーの演奏論を網羅的に調査し、〈演奏解釈的リズム〉と呼ばれうる分析と演奏の量領域にまたがるリズム領域をあぶりだした。この研究については国内学会にて口頭発表を行った。また、音楽理論系の国内学会誌に論文が掲載されることが決定している。 二点目の、指使いと演奏法、その背景にある理論的思想をめぐる研究については、平成25年度に行った口頭発表に基づいて研究論文を国際学会誌に投稿し、掲載が決定している。 三点目の調査対象グスタフ・ベッキングについては、リズムの流れの視覚化という点でエネルギー学派の音楽理論家たちと共通性があるため、シェンカー周辺の思潮を探るために採り上げた。ベッキングの音楽理論と同時代の他学問分野(ディルタイやヤスパースら)とのつながりを調査し、国内口頭発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度の研究実施計画はおおむね達成できたと考えている。まず、戦後アメリカにおけるシェンカー受容の流れを網羅的に明らかにできたことは、国際的なシェンカー研究からみても意義が大きい。論点が拡散しないようリズム理論に絞ったことで、〈構造的リズム〉と〈演奏解釈的リズム〉という重要な概念領域を発掘することができたのが、先行研究の見解にはなかった、日本における研究独自の成果となった。また、前年度に集中的に行ったシェンカーの楽譜校訂の調査については、内容をさらに発展させ、ほかの同時代・前代の音楽家たちの楽譜校訂との比較を通して、今までにはなかった実質的なデータに基づく研究成果を、音楽理論の国際的な学会誌に発表することができた。いっぽう、シェンカーのリズム論だけでなく、これまであまり知られてこなかった周辺の音楽理論家の調査を通して、当時の音楽論をめぐる複雑な学問的環境、方法論を明らかにすることができた。これらを通して、音楽理論の分野が当時、ほかのいかなる領域と接点をもち、相互作用していたかの一端をつかむことができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度の研究実施計画に関しては、平成26年度に行ったベッキングに関する口頭発表を論文としてまとめ、国内学会誌にて発表するる。また、本研究の最終年度であることから、戦前から戦後までのシェンカー受容史を区分し、各時代の特徴を明らかにすることを調査の集大成とする予定である。これについては国内学会で口頭発表を行う予定である。このさい平成26年度と同様、欧米での資料調査や関係者への聞き取り調査が必要となると考えられるため、積極的に行う。また、シェンカーの音楽書の翻訳もあわせて行い、出版する。これらの作業において課題に直面したさいに関連研究者の助言を請うため、関連する学会・研究会に積極的に参加する必要がある。
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