研究実績の概要 |
東南アジアにおけるイスラーム美術のコレクションと展示方法について調査するため、8月にインドネシアの首都ジャカルタにあるジャカルタ国立博物館、テキスタイル美術館、タマン・ミニ内の「コーランの家・イスラーム美術館」などを訪れた。 ジャカルタ国立博物館は、オランダ人によって1868年に設立され、現在では約14万2000点を所蔵しているが,「イスラーム美術ギャラリー」などのような、イスラーム美術に特化した展示コーナーは設けられていない。1976年に、当時の大統領の妻、ティエン・スハルトによって設立されたテキスタイル美術館は、18世紀以降に制作された1000点以上のテキスタイルを収蔵し、2014年夏には「インドネシアのテキスタイル・ドレスと、イスラームによる触発」と題する特別展を開催した。しかし、イスラーム美術研究では一般的な「イスラームテキスタイル」という呼称は用いていない。「コーランの家とイスラーム美術館」は、ティエン・スハルトが主唱して1975年に開設されたインドネシアの33州の歴史や生活、文化を展示するテーマ・パークであるタマン・ミニ内にある。「コーランの家」では東南アジアで制作されたコーラン写本などの展示を行い、「イスラーム美術館」では、広い空間に陶器や、金工品、テキスタイル、木工品、写本、書、墓石のレプリカ、インドネシア各地のモスクの写真パネルなどを並べていたが、大雑把な展示で、イスラーム美術とは呼べないものも混在していた。 そこでは、欧米の美術館で一般的な「イスラーム美術」というカテゴリーは用いられておらず、欧米の「イスラーム美術」研究の成果を取り入れた展示を行っているシンガポール文明博物館などとは対照的である。「多様性の中の統一」を目指すインドネシア政府の意図がうかがわれる。11月に慶應で「東方アジアにおけるイスラームの諸相」と題するシンポジウムを企画・実行した。
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