本年度は、作品の調査は福井県立若狭歴史博物館のテーマ展「若狭の仏像・仏画 不動明王像」の閲覧の他、主に展覧会の展示資料を通した資料の確認に止まったが、これまで調査を行った作品のうち成果をまとめられていなかった作品について論文及び資料紹介を執筆した。一件は、2015年度にまとめて実地調査を行った作品で千葉県に伝わる不動明王像のうち千葉市・大聖寺像(秘仏のため本像については調査が不可能)、睦沢町・長昌寺像、いすみ市・宝泉寺像、南房総市・小松寺像(2体)を含む、房総地方に残る平安時代の不動明王の一図像についての検討である。主にその図像を経軌とを対照し、これらが房総地方のある時期に不動明王の一図像として規範をもつものであったこと、また地方に現れた特異な図像ではなく、おそらくは教学的な背景をもった指導者が地域に持ち込み展開した一図像である可能性を考えた。また、茨城県那珂郡城里町にある宝幢院に安置される降三世明王立像についても、2013年の調査をもとに資料紹介を執筆した。本像は「海圓」という作者の銘記を残す点も注目される。 この他に、昨年度に開設した「デジタル明王図像集」のホームページには、これまでの調査時に撮影した写真をもとに宮城・大徳寺の不動明王坐像をはじめ計19点の彫像作品の画像情報を公開した。彫像に関しては、現在も所蔵者への申請を継続しており、許可を受けたものから今後も随時公開していく計画である。また、文献資料のデジタル化と公開も合わせて行った。文献資料では、申請者個人の蔵書や研究室に所蔵していた資料に加えて、特に明王に関する修法次第を新たに収集・検討し、うち計19点をデジタル化し、すべてをPDFの形で公開する作業を行った。今回の研究では明王やそれに類する尊像のイメージの形成、地域での変容に関する検討も行ってきたことから、穣虞梨童女や青面金剛に関わる資料も合わせて公開している。
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