年度開始とともに、これまで調査・収集をおこなった資料、図像をすべて整理・データ化し、その時点での研究成果を取りまとめ、国内で調査不可能な事項や同定不可能な美術作品など、海外での調査がさらに必要な事項を蓄積した。 それをもとに、大戦間期の壁画芸術の展開に関して、当時の新聞や芸術雑誌などの文献および画像データなど、さらなる基礎資料の収集を国内外において行った。とくに、夏季休暇中には「壁画芸術」協会が大きな影響を受けていたとされる、イタリアにおける前衛芸術家による壁画制作の動向についてイタリアの国立図書館において資料を収集した。また、フランスの国立図書館およびソ連、ドイツ、イタリアなど、ヨーロッパ諸国の芸術政策に対するフランスの反応およびその影響に関する資料を収集した。 それらの資料に基づき、大戦間期フランスにおける装飾芸術の動きとモダニズム芸術の直接的関係を歴史的文脈のもとに分析し、これを論文「モダン・アートと〈自然〉の表象―1930年代フランスにおける抽象芸術に関する一考察」としてまとめた。 さらに、前衛芸術家のはじめ、様々な美術批評家や政治家、「アブストラクシオン・クレアシオン」のグループなどの会員に有していた「壁画芸術」協会の活動の実態を精査し、フランスにおける前衛的な形式が、壁画という芸術形式を媒介することにより持ちえた社会・政治的な意味作用について考察した。その研究成果については現在論文を執筆中であり、意匠学会の学会誌『デザイン理論』に投稿する予定である。
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