研究課題/領域番号 |
25770052
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研究機関 | 安田女子大学 |
研究代表者 |
尾川 明穂 安田女子大学, 文学部, 助教 (20630908)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 董其昌 / 書論 / 画論 / 中国 / 明末 / 題跋 / 法帖 |
研究実績の概要 |
本研究は、中国明末期の書画論を渉猟することにより、所謂「書の時代性説」「南北宗論」等で著名な董其昌(1555-1636)の理論を相対化しつつ、当時の書画理論がいかに展開したかを探るものである。主に、(1)董其昌書画論における、最終的な知見に至るまでの変遷とその契機を示すこと、(2)未公刊資料などから、同時代人の書画思想や、鑑賞・出版活動の実態を窺うことの2点に取り組んでいる。 本年度では、まず、「晋人の書は韻を取り、唐人の書は法を取り、宋人の書は意を取る」より始まる董其昌の「書の時代性説」に注目し、従来解釈の再検討、並びに本説成立の背景の考察を行った。 先行研究では、ほとんどが宋人書法の「意」(自身の意図・意志)を称賛し、唐人の「法」(法則性の遵守)を貶斥したものと解釈する。しかし、本説の出典(『味水軒日記』巻4に採録される董其昌款記)を検討したところ、他条では、書法の法則性を指し、かつ人品にも関わる「法」を重視しており、これを有した唐人を称賛していたことが確認できた。董以前に活躍した湯煥の書論『書指』等にも類似の説が窺えることから、これは当時の文学・書法理論における一般的な見解であり、かような論を承けて本説が述べられたと考えられる。また、本説提唱の3ヶ月前に王肯堂が『鬱岡斎墨妙』を刊行しており、これへの対抗意識も影響したと見られる。 董其昌の鑑蔵状況・理論変遷と、彼の書風の変遷とを対照しつつ、その影響関係についても考察を行った。董の書風は概ね4期に分けられ、その画期は彼の『鼎帖』顔真卿帖収蔵期間や、「書の時代性説」提唱時期などと概ね一致することを確認した。 以上のように董其昌書論の変遷を検討した結果、彼が理想とする古法に適った僅かな歴代書跡が、その入手や他人の業績への対抗意識により大きく取り上げられ、自身の理論・実作に反映されるという過程を辿ったと推測される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
董其昌書論の変遷に関わる考察は順調に進んでおり、そこで得られた結果は、同時代人の書画論形成の解明にも寄与するものと思われる。しかし、これに慎重さを要したために、他の明代末期書画論の収集、並びに上記(2)の検討においてやや遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
当該期書画論の網羅的把握は本課題に必須であるため、漢籍収蔵機関における調査や、影印資料からの収集に取り組み、これらの一覧化・翻刻を進めていきたい。資料が多くなる場合は、稀覯なものや、従来注目されてこなかったものを優先して扱いたい。また、初学段階を意識した書画論に注目して、当時の一般的な書画理解を確認し、文人として活躍した董其昌らの主張との差について確認を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
近年、中国画論に関わる大型叢書が刊行されており、その一括購入を検討しているため。
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次年度使用額の使用計画 |
上記叢書の購入に充当する予定である。
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