研究課題/領域番号 |
25770058
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
瀧浪 佑紀 (滝浪 佑紀) 東京大学, 大学院情報学環, 特任准教授 (30631957)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 日本映画 / サイレント映画 / ハリウッド映画 / 前衛映画理論 / 戦間期日本文化 |
研究概要 |
サイレント映画期における小津安二郎初期作品の特異性を、1920年代・30年代におけるローカル(日本)およびグローバルな映画美学という同時代的文脈の中で照らし出すことが、本研究の目的である。初年度における平成25年度は、「不連続性の感覚――小津安二郎の〈視線の一致しない切り返し〉の発生過程」(『東京大学大学院情報学環紀要情報学研究』85号、1-20頁)において、小津作品において最も特異な映画スタイルである〈視線の一致しない切り返し〉がどのような経路を経て発生していったかについて、1920年代後半から1933年までの小津作品を辿ることによって明らかにし、また国際学会での研究発表“The Issue of Sound-Cinema Aesthetics in Early-1930s Japan: Theory and Practice” (Society for Cinema and Media Studies Conference, Seattle, March 2014) においては、1934年以降、1936年における彼の初トーキー作品『一人息子』に至るまで、小津はサイレント映画を撮りながら、トーキー作品を準備していたのではないかという仮説を立て、『浮草物語』(1934年)、『東京の宿』(1935年)など後期サイレント作品を分析した。 以上のように、小津作品そのものの分析に基づいた成果発表を続けるとともに、欧州映画理論の読解(とりわけジャン・エプスタインやセルゲイ・エイゼンシュタインなど)、同時代日本における映画に関する言説の検証(とりわけ岸松雄や岩崎昶など)も進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
とりわけ『浮草物語』や『東京の宿』を含めた、1934年-1935年の小津安二郎・後期サイレント作品について、小津作品の軌跡の中において一貫した視座の下、綿密な分析ができたことは平成25年度の成果として大きな意義を持っている。この視座を得たことによって、『一人息子』および『淑女は何を忘れたか』という最初期の小津トーキー作品も見通すことのできる地平を手に入れた。また、1920年代後半から1933年に至る、初期及び中期小津サイレント作品に関しても、ハリウッド映画の影響および〈視線の一致しない切り返し〉をはじめとした小津の特異な映画スタイルの発展という観点から、ショット分析の精緻化を進めている。 同時に、同時代日本における映画に関する言説の研究も、数人の批評家による著作や論文、映画レビューを中心に進めており、さらには『キネマ旬報』や『映画評論』などの重要映画批評誌の精読から、より網羅的に同時代日本の映画言説の布置を捉える試みも継続している。欧州映画理論の読解とともに、これらの作業は小津サイレント作品を、1920年代後半から1930年代にかけての日本史・世界史的文脈の中で捉えることを可能にしてくれる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのところ、研究の進捗は順調に進んでおり、引き続き、研究を進めていく予定である。一方では、これまで遂行してきた、小津サイレント作品の綿密なショット分析をさらに精緻化するとともに、同時代日本および欧州における映画に関する言説の検証も継続させる。同時に、平成25年度の研究を経て視野に収められた『一人息子』や『淑女は何を忘れたか』などの小津の最初期トーキーの分析も行い、戦中から戦後にかけての中期・後期小津作品までも見通す視点を手に入れることが、本年度の課題である。また、とりわけ映画批評や映画理論の参照を通じての、小津作品のコンテクスト化という作業も、中期・後期作品に対しても適用し、小津の映画実践の含意を20世紀日本および世界の激動の歴史の中で捉えることも目指したい。
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