サイレント映画期における小津安二郎作品の特異性を、1920年代・1930年代におけるローカル(日本)ならびにグローバルな映画美学という同時代的コンテクストの中で考察することが、本研究の目的である。第二年度にあたり、本研究の最終年度にあたる平成26年度は、研究発表「小津安二郎映画における〈演出〉の美学――1930年代中盤の作品を中心に」(表象文化論学会、11月8日、新潟大学)を行い、岸松雄による小津へのインタビューや岸のリアリズム論などを参照して、小津は彼の後期サイレント作品(1934年・1935年)において、実のところ、長回しとロングショットに基づいた「演出」の美学を探求していたと立論しながら、彼の最初のトーキー作品『一人息子』(1936年)までを辿り、さらにはキング・ヴィダーの小津への影響という観点から、小津の有名な戦後作品(『晩春』や『麦秋』など)へとつながる小津の美学的探求の跡を辿った。加えて、岩崎昶をはじめとする左翼映画批評家の批判を参照しながらの英語論文を、自らの過去の業績に基づきながら執筆し、近年中に発刊される予定である英語のアンソロジーへ投稿した。 以上のように、本年度の研究では、小津作品の分析を、同時代の理論的言説との関連のもとで考察することができた。加えて、ジークフリード・クラカウアーやヴァルター・ベンヤミンの著作を中心として、戦間期における映画についての言説への精読を進め、当時の映画に関する想像力の探求を継続して行った。これは今後の研究へとつながるものであり、翻訳や著作の出版などを目指している。
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