研究課題/領域番号 |
25770063
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
猪瀬 昌延 信州大学, 教育学部, 准教授 (40597340)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 触覚 / 芸術 / 美術教育 |
研究概要 |
平成25年度における研究実績は、データの収集と実践準備が中心となった。その他研究計画調書にあるように、可塑材として用いる塑造用粘土と陶土及び造形用焼石膏を主な素材研究の対象とした。26年度実施のプロジェクトでは、信楽粘土を日干し煉瓦の制作で行われる叩き込み技法を用いて行うことにした。そのため粘土乾燥時の収縮データや素焼き後の収縮データさらには焼成後の収縮データをそれぞれまとめ、叩き込みに使用する升のサイズと必要な粘土量を決定しサンプルを作成した。焼き上がりが乳白色の信楽土に専用顔料を練り込み54色のカラーチャートを作成した。カラーチャートは素焼き、本焼き(設釉・無釉)の3種類を作成した。 陶土によるデータ収集については12歳児42名にヘラ等の用具を用いず触覚のみ(手や指先)による造形を行ってもらいサンプルを作成した。続いて6歳児から12歳児218名の同様のサンプルを作成した。同時に50名強の保護者によるサンプルを収集した。 触覚における造形サンプル収集の結果現在把握したことは、生徒児童と大人との表出又は表現に関わる概念形成に差異があることが挙げられる。現在の概要を述べると成人の造形表現においては視覚の働きが重視され、触覚による造形が自由さを失っているというものである。このことは作られるものに視覚によって把握されるシンボルや記号等が多く表れることや、制作時に何かしらの意味を求め外界世界への働きかけを躊躇する姿勢が窺われたことからから推察できる。児童においては、視覚によって外界世界への働きかけが弱まることは少なく、触覚による外界世界への働きかけを通してさらなる働きかけを行う姿勢が見受けられた。このことは素材や表出されたものによって外界世界を体感し、さらなる働きかけを繰り返す循環作用といえる。可塑材の特性を生かした内的世界と外界世界の触覚による循環と捉えることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我国における可塑性素材を用いた造形の調査研究は予定より遅れているが,その他実践準備やワークショップに関してはおおむね順調に遂行している。 調査研究が遅れた原因は、実践準備が計画より早く進行したことと、当初計画していたワークショップよりも多くの機会を得ることができ、取組んだ結果である。
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今後の研究の推進方策 |
現在進行している陶板プロジェクトの最終段階として6月下旬に6歳児(小学校1年生25名)及び保護者の陶板制作を行う予定である。さらに陶土の乾燥焼成後加工修正を行いレイアウト構成及び設置する。予定としては8月下旬にモニュメントの完成を目指す。完成したモニュメントは制作に携わった生徒児童を含めた広くに公開すると共にプロジェクトに関する研究報告をまとめる。 26年度は新たに小学生低学年児とその保護者を対象とした触覚による造形ワークショップを企画している。ワークショップの具体的日程等は平成26年9月13日、13:55~15:15(80分)。本企画はPTA全校行事「全校親子体験型レク」に組込む造形ワークショップである。本ワークショップにおいて現時点で決定していることは陶土を用いた造形の企画である。25年度より進行している陶板制作は触覚の痕跡を可視化するために限られた造作であった。そのことから本企画では陶土を用いて完全な立体物の制作を試みる。親子体験型という趣旨を鑑み「親子動物園」と題したワークショップを検討している。親子がペアとなり親子ごとに動物を選択し制作を行うことで制作途中での対話が期待されると共にそれぞれの造形からその特徴を分析できると期待している。また、作られたもの(作品)を触覚の引写しと捉え鑑賞することで親子の対話をさらに促すことが期待できる。この親子の対話は双方の作られたかたちを手跡から読み取るという方法で行い、子ども達の躍動感あふれるかたちと大人の先入観や概念化されたかたちとの差異を顕著化できるものと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初計画よりも現地調査回数が少なかったため、次年度使用額が生じた。 26年度請求額に関しては計画通りの使用を予定している。25年度未使用額と26年度請求額を合わせて国立博物館をはじめ、古典塑像を保有している奈良市内の寺社への調査及び美術教育研究会(東京藝術大学)や芸術表現学会(東京藝術大学)図工の哲学研究会(武蔵野大学)への学会研究会へ出席する旅費にあてる予定である。
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