本研究では、多様な立体表現の可能性が追求される現代の視座から、伝統的な造像技術である乾漆技法を用いた新たな彫刻表現のあり方を模索してきた。日本の近代における乾漆彫刻表現を確認すべく行った新海竹蔵と山本豊市の乾漆作品調査では、漆器製作の場合には下地として用いられる錆び漆(生漆と砥粉を混ぜたもの)によるモデリングを完成段階まで活かしつつ、表現に繋げているという特質を捉えた。このように漆を表面の装飾としてではなく、像の身体として扱うことによって、制作研究では既存の乾漆表現にはあまり見られない、重厚でありながら軽やかであるという両価性を備えた、独創的な乾漆彫刻のあり方を提示することができた。
|