【研究目的】 本研究では、正本芝居噺と素噺を比較検討することによって浮かび上がる、それぞれの特徴(話法や演出、様式など)を、速記本を中心とした文字テクストの考察、実際に演じられた高座の分析、同時代資料の調査を並行して総合的に研究することで、正確に記述することを目的とする。 【研究成果】 (1)文字テクストの考察 速記本を中心に文字テクストを考察することで、「鰍沢」における三題話、芝居噺、素噺それぞれの台詞・演出・心理描写の差異を明らかにした。また「双蝶々」については、三代目春風亭柳枝「双蝶余談」や「引窓与兵衛」と比較することによって、続き噺としての全体像を浮き彫りにするとともに、長い物語の中から芝居噺としての「双蝶々」がどのように切り出され、独立した噺へと成長したのかを考察した。 (2)高座の分析 昨年度に引き続き、林家正雀師による第3回、第4回の正本芝居噺映像記録会を、2014年6月10日と2015年2月6日に、東京文化財研究所において開催した。第3回は、円朝作『名人長二』より「仏壇叩きから湯河原」(素噺)と「鰍沢」(正本芝居噺)を、第4回は、「親子茶屋」(素噺)と「双蝶々 雪の子別れ」(正本芝居噺)を実演いただいた。正本芝居噺と素噺を比較するための基礎資料を作成しえたことは、本研究の大きな成果である。また研究協力者の飯島満氏(東京文化財研究所無形文化遺産部部長)のご尽力により、記録会が一般に公開されたことは、芸能を記録するという側面からも、成果を広く公開するという観点からも、非常に意義深い試みであったといえる。 (3)同時代資料の調査 八代目林家正蔵や六代目三遊亭円生から口伝えに語られた円朝以降の正本芝居噺の系譜についてのオーラル・ヒストリーを収集し、文字資料の空白を埋めた。また、昨年度にデータ化を完了した『諸芸新聞』『新編都草紙』『都にしき』等の同時代資料の調査に着手した。
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