研究課題/領域番号 |
25770071
|
研究機関 | 横浜美術大学 |
研究代表者 |
大久保 範子 横浜美術大学, 美術学部, 助手 (80620252)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 相撲絵 / 浮世絵 / 錦絵 / 江戸 / 寛政 / 勝川派 / 勧進相撲 |
研究実績の概要 |
平成26年度は昨年度に引き続き寛政期以降の勝川派による相撲絵の展開について調査した。これまでの過程で春章以降の勝川派による相撲絵の制作の中心は春章-春好-春英-春亭という主な流れが確認されたが、主流外の絵師による相撲絵とどのような差異があったのかを明らかにするため、以下の理由から葛飾北斎に注目し研究を進めた。 ①北斎がはじめ「春朗」として春章のもとに弟子入りし相撲絵を描いていた点 ②北斎が春朗として過ごした寛政期は勝川派による相撲絵の様式完成期にあたる点 ③勝川派を離れた後も相撲の場面を描いていた点 以上の3点をもとに北斎による錦絵、肉筆画および版刻本の相撲場面を制作年別に整理し、同時代の勝川派の絵師による作品と比較することで、特定の流派による寡占が顕著な相撲絵において同一の絵師が派内に属する前後で相撲という画題に対し描写をどのように変化させたのかを考証した。また、昨年の大英博物館の調査で閲覧した春章の相撲錦絵の写しについても誰が描いた作なのかについて引き続き調査を行った。その結果、同作は葛飾派の弟子による文化期ものである可能性が高く、北斎が絵師として独立した後も弟子の画技教育に勝川派の相撲絵を用いていたことが明らかとなった。以上の研究成果は平成27年度5月に刊行予定の横浜美術大学研究紀要に論文として発表している。学外の活動では太田記念美術館で平成26年6月に開催された「江戸の相撲と力士たち」展の作品調査に協力し、これまでの研究成果の一部を公表した。作品調査では、相撲博物館のほか海外調査では平成26年9月に米国のボストン美術館およびメトロポリタン美術館に所蔵される相撲絵の調査を行い、作品データの収集・拡充を図るとともに研究者との意見交換を図った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度は予定していた相撲博物館での調査に加えアメリカでの調査を行った。平成25年度は制作の主流であった勝川派の絵師たちの考証を行ったが、26年度は主流外の絵師による制作の様相を課題に据え、同時期に活躍した絵師の葛飾北斎の相撲絵について調査を行った。その結果、北斎は勝川派に属する前後で力士の描写を意識的に変えた一方で、葛飾派の門弟にも春章の相撲絵を模写させており、体躯描写の習得に相撲絵を用いていたことが明らかとなった。以上の点は浮世絵の人物描写における勝川派相撲絵の広範にわたる影響関係を示すものであり、本研究の課題である相撲絵の寛政期以降における展開が明確化してきたといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度は3年にわたる計画の最終年度にあたるため、これまでに収集した文献・資料をもとに研究の総括を行う。具体的には過去2年に取り組んだ勝川派の主流・非主流の絵師による相撲絵の差異を精査し、寛政期の興隆から衰退、歌川派に移行するまでの流れを勧進相撲の興行記録および当時の文化面の影響関係を鑑みながら俯瞰的にまとめたい。また昨年度に引き続き文献・資料調査も進行させ研究の進化を図る。関連分野の研究者と積極的に意見交換を行いながら、最終的には日・英二ヶ国語による研究成果の公表を目指し論文の執筆や研究発表の準備を進める方針である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は国内外の資料調査を集中的に行いおおむね想定通りの出費になったものの、資料は複写ないしデータによる保存を多く行った。資料購入費を抑えた理由としては、最終年度に予定する翻訳依頼費が想定よりも多くなる可能性がでてきたためである。また、申請書にある電子記録媒体についても現在データ整理の作業中であるためハードディスク等をはじめとした機器が未購入である。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成27年度は研究の総括および公表へ向け、文献・資料の購入のほか新たに論文の翻訳に対しての出費が見込まれる。また資料データの整理・保存のための記録媒体、過去2年の補完調査や研究成果発表に対し残額の使途を再度検討し直し用いる予定である。
|