これまでの調査で、相撲浮世絵は天明~寛政期に勝川派の絵師たちによって本格的に制作が行われるようになった一方で、次第に作風が固定化し、文政期には衰退に向かったことが確認されたが、本年度は流派内での具体的な制作状況について引き続き調査を行うとともに、収集した資料にもとづいて検討を行った。特に勝川派内で最も多くの相撲絵を制作した春英の作例を重点的に扱った。その結果、天明初期の極めて早い段階で、勝川派内の先導的立場であった春章・春好だけではなく、春英をはじめとした若手の絵師たちも相撲絵の制作に加わっていたことが判明した。また衰退期にあたる文政期になると、既存の作品の流用や一部を改変しただけの作例が増加するほか、春英の没後にもその落款を付した作品が複数版行されていることが確認された。これは春英の相撲絵における名声を裏付けるとともに、少なくとも相撲絵においては勝川派内で有力な絵師がいなくなったことを示していると考えられる。また、既存の作品の積極的な利用や力士名を混同したと思われる作例からは、相撲絵の需要が高まる一方で制作が追いつかず、作風固定化の一因になったのではないかと考察した。 平成27年度は9月にフランスのギメ美術館で相撲絵の調査を行い、相撲博物館の所蔵作品との調査内容をあわせ、2015年11月8日の国際浮世絵学会秋季大会にて発表を行った。また、太田記念美術館にて2016年2月2日~3月27日に開催された特別展「生誕290年 勝川春章-北斎誕生の系譜」にて、相撲絵についての調査および解説に協力したほか、論文を寄稿し当該研究成果の公表を行った。勝川派に関する大規模な展覧会で相撲絵が単独のセクションとして取り上げられるのは初のことであり、浮世絵研究のさらなる展開に寄与できたと考える。また、今回の研究内容は英語に翻訳中であり、海外へ向けても成果の公表を行う予定である。
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