研究課題/領域番号 |
25770081
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
合山 林太郎 大阪大学, コミュニケーションデザインセンター, 講師 (00551946)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 日本漢詩 / 明清 / 近世文学 |
研究概要 |
本年度に予定していた基礎的な調査について、文献による検討を中心に、ほぼ予定どおり進めることができた。①『日本詩話叢書』『日本芸林叢書』『影印日本随筆集成』などの代表的な詩話・随筆の叢書から、明末の袁宏道、清の袁枚をはじめ、明清時代の詩論史上重要な詩人に関連する記述を抄出し、整理した。また、昌平黌、咸宜園関係者の資料を用いて、詩の流入状況について分析した。②袁宏道、袁枚、趙翼ら、性霊派詩人の日本への流入状況について、すでに発表されている唐船持渡書などの研究の成果を整理するとともに、和刻本などを中心とする彼らの詩の日本における流布状況を調査した。具体的には、日本国内に所蔵されている漢籍の『随園詩話』について書誌的調査を行った。また、『甌北詩話』などの趙翼の詩や詩論が、近世後期の日本においてどのように受容されたかについて検討した。さらに東京大学総合図書館所蔵の森鴎外蔵書の中の性霊派詩人関係の蔵書とそれへの書入れを調査した。このほか、『三家妙絶』などの化成年間に刊行された南宋詩の詞華集についても採録作品や受容状況について検討を行った。③明清時代の性霊派以外の詩人の日本における受容状況について検討を行った。東京大学総合図書館森槐南文庫から得た情報の整理を行い、沈徳潜の日本への影響について考察した。また、江戸後期の詩人の稿本類を調査し、『浙西六家詩鈔』などの日本における受容状況について知見を得た。④清末の詩人兪エツが編んだ『東瀛詩選』の序跋や評、収録された詩について、とくに広瀬旭荘の作品を中心に検討し、兪エツの詩観や評価の有り様を考察した。⑤このほか、以上の事柄と関連する近世・近代における漢詩文文化について考察した。また、とくに近世期の漢詩を再考する際に重要な意味を持つ明治期の詩人の評論を調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記「研究実績の概要」に記した調査にもとづき、次のような知見を得た。①江戸後期の詩話や随筆には、性霊派詩人、また、彼らと密接な関わりを持つ南宋の詩人について、一定量の批評や感想が記されている。これらの情報と、書籍の輸入や別集の和刻の状況などから、明清の詩論の日本への影響について詳細に分析することができる。②現在、性霊派に分類される詩人の受容状況を通覧した結果、山本北山らが『作詩志コウ』を刊行した天明期と、江湖詩社の詩人たちが詩壇の中心に位置するようになった文化文政期では、袁宏道や袁枚らへの評価、また、宋詩への理解が相当に異なっているという認識を得ている。幕末の大沼枕山一派では、趙翼の「梅花」詩が意識されており、性霊派詩人の発想や修辞への関心が顕著であることが分かった。東京大学総合図書館の鴎外文庫所蔵の『甌北詩話』の書入れは、語義や交合に関するものがほとんどであったが、明治期にいたるまで、性霊派の詩論が、影響力を持っていたことが確認できた。なお、『随園詩話』の諸本調査については、鄭幸『袁枚年譜新編』(上海世紀出版集団、2011年)などを参照しつつ調査を行い、データを蓄積中である。③銭謙益や沈徳潜をはじめ、明清時代の詩論に関する記述や、この時代の詩人からの影響が看取される詩について情報を集めた。④兪エツの選定した旭荘の詩は、修辞的技巧を多く用いた機知のものや、道徳や教訓について述べたものなど、内容的には多様である。戦後の近世日本漢詩研究史の中で観念されてきた性霊派の詩と、兪エツの理解する性霊とでは、実質的な意味の点でやや異なっていることが予想される。⑤『作詩作文之友』所載の江戸漢詩批評から、江戸漢詩理解についての重要な情報を得るとともに、こうした批評が、明治期における詩吟の流行など、漢詩を取り巻く新しい事態に反応した結果、記されたものであることを明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究の進捗を踏まえ、以下のように今後の研究を進める。①明清詩論の近世日本における受容について、基礎データの収集・整理・分析を継続して行う。詩話や随筆に加え、和刻本漢籍の序跋や、詩学作法書にも範囲を広げる。また、藩校・私塾などにおける漢籍の所蔵状況から、詩作品の流布状況について検討する。②袁宏道や袁枚らの作品、彼らが生きた時代の思想状況、関係する人的ネットワークなどを調べ、明清時代における詩論のあり方を分析する。また、朝鮮における明清詩説の受容状況についてデータベースなどを用いて検討する。その上で、これらの国々での理解が、近世日本における性霊説の受容とどのように違うかを明らかにする。近世日本の性霊派詩人については、本年度の研究によって得た知見に加え、作品をより多く読解し、彼らがイメージしていた詩文のあり方を明確化する。③明清時代の詩壇全体について調査を行う。銭謙益の袁宏道推奨や、沈徳潜と袁枚の対立、袁枚と趙翼の交流など、詩論史上で重要と思われるテーマを中心に、中国文学領域における最新の研究成果をも参照しつつ、検討する。これらの知見を、本年度収集した近世日本についてのデータを分析する際に用いる。このほか、明の楊慎など、性霊や格調・神韻などの明清の三詩説の文脈のおいては注目されないが、日本の詩話などに頻繁に登場する詩人についても、重点的に調べる。④兪エツの文章観について、彼の別集である『春在堂全書』を読解しつつその全体像を理解する。その上で、本年度行った『東瀛詩選』に関する検討の成果について再度考察し、清末の中国と江戸時代後期の日本の文壇における詩観の差異について分析する。以上、①から④までは、成果がまとまり次第、できるだけ早く活字化する。⑤明治期の評論のうち、学術的に価値が高いと思われるものについて翻刻を行い、早期に公開する。
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次年度の研究費の使用計画 |
予定していたいくつかの資料調査及び学会発表について、資料所蔵機関の都合、また、研究代表者のスケジュールなどの問題で、実施を次年度に変更した。そのため旅費の支出が、予定使用額よりも少なくなった。これらの資料調査のかわりに、文献などを用いた調査を先行させているため、計画の進行に問題はない。 本年度に実施を予定していた資料調査(国外における調査を含む)、学会発表などを、次年度以降に変更する。
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