性霊派の代表的な詩人である明末の袁中郎(袁宏道)の近世日本における受容状況を中心に調査を行った。 まず、袁中郎のテキストの問題について、前年度に引き続き検討を進めた。国立国会図書館、内閣文庫、東洋文庫、静嘉堂文庫、東京都立図書館、西尾市岩瀬文庫、愛知大学図書館、京都大学人文科学研究所図書室、慶應義塾大学図書館、東京大学附属図書館、広島大学図書館などに所蔵される『梨雲館類定袁中郎全集』を調査し、明刊本『梨雲館類定袁中郎全集』に複数の版があること、このうち、巻九に落丁を含むもの(国立国会図書館蔵本)が和刻本の底本となっていることを確認した。 次に、近世日本において性霊派受容において、大きな役割を果たした山本北山とその一派について、北山の門人たちが編んだ『袁中郎先生尺牘』、『三家絶句』などを調査し、彼らがどのような意識をもって、どのテキストを参照しながらこうした詩文集を編んだのかについて分析を行った。 さらに、山本北山と関係のある人物の詩稿などに記される袁中郎関係の詩文を調査することによって、近世後期の詩人が、袁中郎のどの作品に注目していたのかを検討した。具体的には、加賀市教育委員会の保存する大田錦城関係資料、秋田県立図書館に所蔵される疋田柳塘関係稿本、また、樫田北岸や雨森麟斎らの文章を調査し、袁中郎の受容及び中国詩論に対する理解について、新たな知見を得た。 このほか、近世・近代の日本人の詩文集を網羅的に調査し、袁枚や趙翼など、明清の性霊派の詩人に言及した詩文についてデータを取得・分析した。また、朝鮮漢詩文集なども含め、ひろく近世日本への漢籍流入に関する記事を収集し、明清詩論の浸透との関連について考察した。
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