研究課題/領域番号 |
25770085
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 宇部工業高等専門学校 |
研究代表者 |
赤迫 照子 宇部工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (70452612)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 浜松中納言物語 / 写本 / 書入 / 伝本系統 / 本文 / 享受 / 和学者 / 物語 |
研究概要 |
平成25年度は計画通り、写本の調査と複写物の収集(デジタルカメラによる撮影も含む)・翻刻に専念した。調査先は、萩市立萩図書館・金比羅宮図書館・多和文庫・香川県立ミュージアム・鶴見大学図書館・松本市立中央図書館である。所蔵機関関係者・所蔵者から受入や入手に至る聞き取り調査も行っている。 現物未確認ながらも複写物を収集できたのは、東京大学文学部国語研究室本・関西大学図書館本・刈谷図書館村上文庫本・中田光子本・新潟大学附属図書館佐野文庫本である。 他に、名古屋市鶴舞中央図書館本が戦災によって焼失したことを確認できた。 萩市立萩図書館本(巻三のみの一冊)には、現存写本群に必ず存する共通脱行箇所が全くなかった。これをふまえて、刊本である丹鶴叢書本と比較しながら調査を行ったところ、萩市立萩図書館本は江戸末期の、丹鶴叢書本の写しであることが判明した。旧蔵者は、蔵書印によって長門国厚狭郡万倉の領主で長州藩家老の国司親相(1842~1864)であることが明らかになった。国司親相没後は、親相と同じく和学者近藤芳樹に師事していた楢﨑景海が該本を得ている。景海亡き後は嫡男時太郎が該本を継承し、その後、萩市立萩図書館に寄贈している。これらの調査結果は、「萩市立萩図書館蔵『浜松中納言物語』について」(『宇部工業高等専門学校研究報告』第60号pp.53-56 2014.3)にて報告を行った。古写本に遡る手がかりは得られなかったものの、江戸時代における『浜松中納言物語』享受の一様相を確認することができた。 他本については、小松茂美氏『校本浜松中納言物語』や先行研究に言及がなく、伝本系統が未確認である写本から順次、翻刻を行い、伝本系統を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
段取りよく現物調査を進めるために、当初、既に写本間の関係がある程度確認できているD類/乙類第三種本を集中的に調査する予定であった。しかし、伊勢神宮の遷宮のため、神宮文庫本の調査が実施できなかった。D類/乙類第三種本と思しき写本を所蔵する他の機関についても、スケジュールが調整できず、平成25年度の調査を断念せざるをえなかった。 その一方で、調査を計画していなかった(写本所蔵にまつわる情報が得られていなかった)機関に赴くことができたため、当初の予定以上に研究を展開することができた。所蔵機関関係者や所蔵者の懇切な支援と協力によって、目録上にはない情報を得られたのも、大きな収穫であった。 なお、所属機関の異動によって、平成25年度は基礎資料(主に辞典類)を整備する必要が生じた。そのため、当初の予定よりも物品費を使用することになった。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画通り、平成26年度も引き続き、写本の調査と複写物の収集・翻刻を進めていく。具体的には、1.写本の紙焼写真・画像データの収集、2.翻刻(本文・書入)、3.現物調査である。段取りよく、合理的で経済的な調査ができるように、スケジュールを組み立てる。アプローチが困難で情報の公開が制限される写本がある場合、必ず所蔵機関の指示に従って写本を取り扱い、情報公開の限界を随時、所蔵機関に相談をする。 平成25年度に調査できなかった機関には早めに赴き、D類/乙類第三種本における書写の関係をなるべく早めに解明する。D類/乙類第三種本以外についても、伝本系統同士の有機的な関係を意識し、実見のための繁雑さに照らしながら、要領よく調査を行う。
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