最終年度である今年度は、3年間の成果として収集データをとりまとめ、新校本作成に向けての準備に取り組んだ。 同時並行で、基礎作業である写本調査・複写物の収集(デジタルカメラ撮影も含む)・翻刻も行った。今年度、写本の実見及びマイクロフィルム閲覧のために赴いた調査先は、神宮文庫・慶應義塾大学斯道文庫・国文学研究資料館である。現物未確認ながらも電子複写物を入手できたのは、実践女子大学図書館本1点、静嘉堂文庫本3点である。 国文学研究資料館蔵の彰考館文庫本(水戸藩松平斉昭旧蔵)マイクロフィルム調査では書入「与清按」を発見し、該本が小山田与清『浜松中納言物語目録』の作成に使用された本の転写だと判明した。この報告は「国立国会図書館蔵『浜松中納言物語目録』の依拠本(一)」(『宇部工業高等専門学校研究報告』第62号 2016.3)にて行った。神宮文庫本(卷二のみの一冊)については、内題「浜松中納言殿物語」からD類/乙類第三種本と確認できた。さらに上欄書入が無窮会神習文庫本・書陵部紅梅文庫旧蔵本・大阪府立中之島図書館中西文庫本と一致したため、和学者足代弘魚による書入の転写だと判明した。したがって、神宮文庫本は本居宣長一門によって書写された中の1本である。なお、前掲の彰考館文庫本・実践女子大学図書館本もD類/乙類第三種本である。3年間の調査で、小松茂美氏『校本浜松中納言物語』(二玄社 昭和39)掲載の4点以外に確認したD類/乙類第三種本は9点にもなった。宣長の写本入手先は以前として不明なものの、宣長一門の書写活動による伝本流布の実態解明は大きく前進した。 他系統に関しても、今年度末になって所蔵情報に関する貴重な情報を得た。研究期間終了後も引き続き調査を進め、新校本の作成と刊行を目指す。
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