研究課題/領域番号 |
25770086
|
研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
笹尾 佳代 徳島大学, 大学院ソシオ・アーツ・アンド・サイエンス研究部, 准教授 (60567551)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 樋口一葉 / 柳原白蓮 / モダンガール / 軽井沢 / 菊池寛 / 阿部知二 |
研究実績の概要 |
本研究は、1920年~30年代のメディア・ミックス現象を手がかりに、文学的事象が「大衆」にいかに対峙してきたのかについて、考察しようとするものである。 平成26年度は、基礎的な調査をさらに進めるとともに、個別的な事象の分析に重点を置いた。まず着目したのは、演劇というメディアである。一度に大勢の観衆を前にする演劇は、「大衆」をどのように意識していたのか。新派劇が新生をかけて上演した「一葉舟」を対象に、樋口一葉の「日記」やその作品が演劇化された際の問題を明らかにした。また、樋口一葉文学をめぐる享受者の変容は、言語内翻訳ともいえる「現代語訳」を登場させた。とりわけ「たけくらべ」の翻訳、翻案事例を考察し、物語の解釈が読者の〈今〉へと接続されていく様を捉えた。 樋口一葉の事例にも見られるように、「大衆」が意識される時に好んで描き出されるのは女性たちの姿である。2年目にあたる平成26年度の研究計画として挙げていたのは「モダン文化に特徴的であった女性表象の分析」であった。1920年代に登場したモダンガールが闊歩する街として最もポピュラーなのは銀座であるが、都市のモダンガールの移動先として多く描き出されていたのは軽井沢であった。そこで、軽井沢を舞台に描かれた堀辰雄「美しい村」、阿部知二「山のホテルで」、菊池寛「陸の人魚」における女性表象を捉えることから、「大衆」の期待の地平に応じた物語が創られていく様と、モダン文化が抱えていた問題点を明らかにした。 また、同時期のスキャンダルとして多くのメディアに書き立てられた女性の一人に、柳原白蓮がいる。マスメディアを通して大衆の前に流通させられたイメージとしての白蓮の姿と、スキャンダルな報道への応酬の姿勢が認められる白蓮自身の文章とのぶつかり合いの諸相を明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)初年度に引き続き、「現代大衆小説全集」と講談との関わりについての基礎調査と、調査表の作成を進めている。 (2)二年目である平成26年度の計画であった「モダン文化に特徴的であった女性表象の分析」を行い、三本の論文発表、一度の口頭発表、一度の講演を行った。 (3)演劇という大衆メディアに関する考察や、「現代語訳」という新しいテーマを発見することができた。
平成26年度の目標であった個別的な事例の分析は、当初の計画以上にまとまった成果として発表することができた。3年目に予定していた演劇をめぐる事象も論文にすることができ、現代語訳というメディアの横断を新しいテーマとして見いだし、それについての講演を行うことができた。初年度から続けているメディアミックス現象の基礎調査と、調査表の作成は進行中である。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き、「大衆小説」と「講談」との関係の調査を行いながら、特徴的な個別事象についての分析を行う。当初の計画通り、映画、演劇といった大衆メディアに文学者たちがどのように関わっていったのか、視野を広げて検討する。〈通俗〉の対象とされて描き出された女性像と、女性たち自身が描く女性像との乖離が、女性表彰をめぐる状況として興味深いものとして浮上してきたため、調査・分析を行いたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
国立国会図書館が開始した図書館間のデジタル資料送信サービスによって、近隣提携図書館でも閲覧することができる資料が増えたため、旅費の支出が削減できた。また、同じ理由から、マイクロフィッシュや古書などを購入しなくても資料の入手が比較的容易になったため、物品費の支出も予定より抑えられた。
|
次年度使用額の使用計画 |
希少図書・資料などは各図書館・資料館での調査が必要となることと、平成27年度以降は、映画・演劇の調査に東京国立近代美術館フィルムセンター・早稲田大学演劇博物館などに行かなければならないため、出張費として使用したい。また、複写資料を効率的に用いるため、デジタル画像資料として保存・整理することを目的とした備品を購入したい(ドキュメント・スキャナーなど)。
|