2017年度は、戦後復活第1回の芥川賞を受賞した由起しげ子をめぐる事例を中心に、メディアミックス現象の調査分析を行った。由起しげ子が所蔵していた映画、テレビ、ラジオドラマの脚本や、日記、書簡等といった貴重な資料を調査する機会に恵まれたため、当初予定していた1920年代から30年代という期間からより広げて、戦後の女性作家とメディアとの関わりについて検討した。 日記の記述や書簡等をもとに、由起が映画界、ラジオ、テレビ界と交流が深かったことを明らかにした。特に、映画の原作として執筆を求められ、取材を行いながら創作された「赤坂の姉妹」の成立過程を、取材ノートをもとにたどると共に、その映画化に際して起きた諸問題等を明らかにした。また、由起の日記・書簡や、映画雑誌、新聞のテレビ・ラジオ欄の調査を行い、「由起しげ子と視聴覚メディアとの関わり事例一覧」として公開した。由起をケーススタディに、戦後文学と視聴覚メディアとの関わりを捉えることを企図したものである。その他、調査の過程で明らかになった由起関連文献や未発表書簡等を、それぞれ、文献目録、書簡文翻刻・解説というかたちで、共著として発表した。 また、1930年代の女性作家が〈大衆〉と対峙する諸相についての調査・分析を行った。1930年代の〈大衆〉とは、左傾化する動きの中で教化されるべき対象としても見いだされていた。映画や演劇などといった大衆消費文化を、1930年代性の中で多角的に見直す視座を得ることを目的に、『女人芸術』について分析し、国際シンポジウムにおいて口頭発表を行った。
|