研究課題/領域番号 |
25770087
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
中島 貴奈 長崎大学, 教育学部, 准教授 (10380809)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 近世長崎 / 大田南畝 / 日本漢詩 / 八景 |
研究実績の概要 |
平成28年度は、大田南畝の長崎を題材にした漢詩作品のひとつである「瓊浦八景」をとりあげて、詳細な注釈を施すと同時に、近世の長崎で作られた他の「八景」「十二景」詩との比較を行った。南畝には八景を詠じた狂詩・狂歌等の戯作はあるが、完全な形での八景詩は「瓊浦八景」のみである。さらに本作は別に自筆の折帖も残されており、南畝得意の作であったことも窺われる。また、近世の長崎では多くの「八景」「十二景」詩がさまざまな人物によって作られており、先行する作品との比較ができる点においても意義のある作品である。
研究の結果、①南畝の「瓊浦八景」は、小題(八つの景勝)の選定に当たっては先行する長崎の八景詩の流れを汲み、恐らく来舶清人の八景詩の影響をうけて選ばれていると推定されること、②しかしながら詩の内容は、先行作品の影響を受けることなく、南畝自身が見聞した実際の様子が詠み込まれていること、の2点が明らかになった。②については特に、レザノフ一行との会見に同席したことを想起する「梅崎夜雨」や、南畝が特に思い入れを持っていた彦山の月を詠み込んだ「西山秋月」等において、南畝作品の独自性が強く表れている。先行する長崎「八景」詩の多くが、実際の地名を題材にしていても内容を見ると典拠の多用や表現に趣向をこらすことを主眼とするものが多いということとは全く異なる点であった。
なお本研究の成果は、平成28年11月に開催された長崎大学国語国文学会において口頭発表を行ったほか、論文「大田南畝『瓊浦八景』について」(『国語と教育』第41号、平成28年11月発行)にまとめて公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度に限って言えば、「瓊浦八景」という作品に絞り、作品の注釈を作成して他の八景詩と比較するという目的のもと研究を行い、十分な成果を得ることができた。
しかしながら、平成27年度までの育児休業による中断の遅れを取り戻すまでには到らなかったのが現状であり、研究全体としてはやや遅れていると判断せざるを得ない。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は最終年度にあたるため、引き続き南畝の長崎滞在中の作品を一首でも多く読み進めてゆきたい。数十首の作品についてはすでに詳細な注釈が完成しているものの、29年度内に二百を超えるすべての作品の注釈を作成することは、残念ながら現段階では難しいと考える。そのため「瓊浦八景」のように先行作品との比較が可能なテーマを絞り、精読して考察を行う予定である。具体的には、「瓊浦八景」とよく似た作品「崎鎮八絶」(自筆絵入り稿本有り)を中心として進めてゆきたい。本作品の自筆絵入り稿本については、絵も南畝自筆とする解説もあるが、その点についても再考したい。
また、本研究の目的は南畝が長崎で詠じた作品の精読を通じて、長崎赴任の文学的意義を探ることにある。そのため、南畝が先に滞在した大阪での作との比較も意義があるものと考えている。大阪滞在中の南畝の文学については先行研究があるため、それらを利用して研究を進めたい。
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