平成27年度の研究成果は、まず、前年度に入稿済みであった論文「芥川「俊寛」と『攷証今昔物語集』」が査読付き学術誌「芥川龍之介研究」第9号(平成27年7月刊行)に掲載された。俊寛という古典文学での説話で有名な人物について、近代の芥川龍之介が描いた「俊寛」を、説話文学の代表である「今昔物語集」との関係から論じた研究で、近代説話という本研究課題に沿った研究が形にできたと考えている。 昨年度の本報告で、27年度の課題として挙げた、石川五右衛門についても、「石川五右衛門ものの明治大正期における展開 ―実録・講談本から小説・戯曲へ―」という論文を「文学」(平成27年7月)に発表し、計画を遂行できた。 また、平成27年7月に大谷大学文藝講演会にて、「講談本―その面白さと重要性、近代作家の参考書として―」と題して講演した。これは芥川をはじめとする近代作家と講談本とのかかわりについてまとめたもので、いわばこれまでの、また現在の本研究課題における研究状況について一般向けに説いたものである。内容については、筆録として大谷大学「文芸論叢」86号(平成28年3月)に収録された。 平成27年12月には大阪府立大学にて「作家の参考書-芥川龍之介を例に-」と題して、「今昔物語集」や近世の戯作、明治初期の実録と芥川文学の関係について研究成果をもとに講演した。その内容の一部について、研究をさらにすすめて、平成28年3月に論文「芥川龍之介文庫の明治期実録本―『開明奇談写真之仇討』『女盗賊峯の邦松』など―」(「文学史研究」56号平成28年3月)として発表した。実録を中心に〈近代説話〉の系譜の一部をまとめたものである。 以上、平成27年度の研究実績は、本研究課題に関連する講演2件(講演筆録1本)と、発表論文3本であり、研究目的、研究計画に沿った研究をすすめ、成果も出すことができているものと考える。
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