藤原定家の監督書写本に私家集が多いのは、歌の家として勅撰和歌集の撰集資料として備えるためと指摘がある。しかし、私家集以外にも監督書写本が存在することとの意義について、私家集が多く存在することと重ねて考えることで、定家監督書写本の本当の意義が見えてきた。すなわち、定家は和歌集のみならず広く古典を研究し、歌学や作歌に反映していくその原点となる資料を監督書写によって製作していたのであり、歌学書や『源氏物語』など様々な内容の写本が現存するのはむしろ当然なのである。これによって定家監督書写本は定家の古典研究の様子や歌についての考えを知るためには真跡資料に劣らず貴重な資料であるということが判明した。
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