研究課題/領域番号 |
25770094
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
塩野 加織 早稲田大学, 文学学術院, 助手 (80647280)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 日本文学 / 井伏鱒二 / モダニズム / 新興芸術派 |
研究概要 |
平成25年度は、主に1930年前後の時期を中心とする同時代資料・先行文献の調査収集を行なった。初年度にあたる本年度は、井伏鱒二作品の地方表象について、まずは作家の出発期の文学活動に照らして整理し把握するべく、以下に挙げる二つのテーマに細分化し調査を進めていった。 まず一つには、作家の最初期の文学活動における表現生成の過程を精査し、それを明らかにすることを目指した。具体的には、近年翻刻が公開された習作「祖父」について、そこにみられる地方表象を中心に分析した。その上で、本格的デビューを果たす時期までの複数の初期作品を対象に、本文推移の過程を表現生成の観点から分析した。この成果については、論文にまとめる準備を進めている。 次に、これらの作品分析と併行させるかたちで、1930年前後における文壇・文学状況に関する資料調査を進めた。この時期は、プロレタリア文学が隆盛する一方でモダニズム文学系統の新興芸術派と呼ばれる文学潮流が勃興・相対していく時期にあたるが、本研究では特に当時のモダニズムを論じる言説にまずは主眼を置き、地方表象あるいは地方を描く行為がそこでいかなる位置を与えられていたのかという観点で同時代資料の調査を進めている。地方を描く行為は、この時期のプロレタリア文学とくに農民文学の文脈で語られることが大半ではあるものの、実際には一部のモダニズム関連の言説においても独自の解釈を伴って流通していた事例を、今回の調査で見出すことができた。この点については今後も調査を続行する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の年次計画では、本年度の調査対象時期を昭和10年前後に限定し、そこから調査を開始することを想定していたが、実際に調査を進めていくうちに、本作家の出発期である1920年代後半から30年初頭にかけての時期について改めて精査することが不可欠であるとの認識に至った。このため、一年目である本年度は調査対象時期を若干拡大し、1920年代後半から30年初頭までの文学状況とそこに参入していく井伏の文学活動に関する調査を進めることを最優先させた。その結果、当初計画した一部の調査対象(特に昭和10年以降に関するもの)は次年度へ繰り越すことにはなったが、今後の考察を展開させていく上で基盤となる資料や論点を多く見出すことができた点で有意義であった。とりわけ、次年度から着手する昭和10年代以降の井伏の表現史的展開については、本年度で分析した最初期作品の表現構造を一つの基点にして考察することが可能となった。このように、今後の分析基盤を獲得できた点でも順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
井伏の最初期作品における表現とそこにみる地方表象との相関関係については、順調に分析・考察が進んでいるので、これらの成果をひとまずまとめた上で、さらに、対象年代を1930年代へ徐々に移し展開させていく予定である。このうちまずは、井伏鱒二もその一人であった新興芸術派の文学運動の特質と、当時の井伏作品にみる地方表象の特質をそれぞれ分析した上で、その間にあった質的差異及び連関性を改めて整理・検証したいと考えている。また、1920年代から30年代初に一時流行したエロ・グロ・ナンセンスと呼ばれる文化文学ジャンルのうちにも、部分的にではあるが文学表象としての地方が活用される事例が確認できることから、これらも射程に入れつつ資料調査を進めていきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初は資料調査出張を予定していたが、日程調整の都合により次年度へ見送ったため、この分の予算を繰り越すことにした。また、物品費のうち本年度内に収集が終わらなかった資料もあるため、この分の調査が継続できるように、図書購入費等も次年度へ繰り越すことにした。 出張費としては、井伏鱒二自筆原稿類の資料調査のため、ふくやま文学館と山梨県立文学館への出張を複数回予定しており、この経費を計上する予定である。また、新興芸術派およびエログロナンセンスに関連する図書・雑誌資料を収集して調査分析するため、この分の図書購入費と複写印刷費を支出する。
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