本研究は、井伏鱒二作品にみる地方表象について1930年代~50年代の日本内外の社会的・文化的状況を踏まえて分析し、その特質を明らかにすることを目的とした。まず井伏の初期作品群に施された大量の改稿箇所を検証し、デビュー当時から特異なものと言われた井伏作品の地方表象が、当時のモダニズム文学とプロレタリア文学の方法的な融合として捉えられる点を析出した。さらに1940年代~50年代の日本文学翻訳事業とその出版物に関する調査を行い、井伏作品中の地方の風俗描写や方言の記述は、50年代当時活躍した一部の翻訳者からは忌避される傾向にあったことを明らかにした。
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