研究課題/領域番号 |
25770095
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
位田 将司 日本大学, 経済学部, 助教 (80581800)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 新カント派 / 価値哲学 / マルクス経済学 / 円本 / 日本近代文学 / 横光利一 / プロレタリア文学 / 改造社 |
研究概要 |
1920年代から30年代にかけての日本近代文学は、改造社が企画した「円本」による「文学」の「商品化」によって、「大衆」による消費の対象となり始めていた。この「文学」の「商品化」はなぜ可能であったのか。本研究は当時隆盛を誇った、新カント派の「価値哲学」が理論的な資源を、「文学」の「商品化」と「価値化」に与えていたのではないかという予測を立て、調査を始めた。そこで明らかになったのは、1920-30年代にかけて、「文学の価値論争」が、新カント派の「価値哲学」を背景としながら、マルキシズム文学の作家たちを巻き込み、マルクス経済学の理論をも取り込んでなされていたということだった。この調査の成果は、口頭発表「横光利一における「文字」という「商品」」(日本大学国文学会大会 2013/06/29)で発表をした。 また、この調査の過程で、新カント派の「価値哲学」と、この時期に翻訳が完成していた『資本論』との理論的な関連性を明らかにすることができた。マルキシズム文学やマルクス経済学を理論的に摂取していた文学者たちは、同時に新カント派の「価値哲学」にも興味を示していたのである。このマルクス『資本論』と「価値哲学」の関係の調査結果は、論文「横光利一と『資本論』―『上海』と『機械』を連関させる「経済学」―」(『早稲田現代文芸研究』04、pp.89-114、2014年3月)によって公表した。 平成25年度の研究によって、1920-30年代の日本近代文学の「商品化」、「価値化」の問題が、新カント派及びマルクス経済学の二つの視点から考察可能になったのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1920-30年代の日本近代文学における、「文学の価値化」と「価値哲学」の理論的な関係を調査するにあたって、資料収集及び理論的な整理は順調に進んでいる。「文学」に関わる新カント派「価値哲学」の文献を収集し、なぜ「価値哲学」が「文学の価値」に影響を与えていたのかの、理論的な見通しが立てられる成果を得られたことが大きい。この成果は、学会における口頭発表で公表することができるまでに、まとまりを見せ始めている。 また、この調査過程でマルクス経済学もまた「文学の価値」に影響を与えていたことが判明し、「価値哲学」との理論的な関係性を論文として発表できるまでに整理可能となってきた。以上のような調査と調査結果を照らして考えれば、研究は順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、さらに新カント派の「価値哲学」の文献を収集し、同時代のマルクス経済学に関わる文献の収集をおこないたいと考えている。加えて、新カント派には「価値哲学」のみならず、左右田喜一郎を代表とするような経済学者も存在している。この新カント派の「経済学」の文献も視野に入れながら、調査を進めていく。 また、同時代には改造社の「円本」が流行し、「文学の価値化」が出版メディアの側面でも進んだ時期であったことを考慮し、改造社の調査も進めていく予定である。そのためにも「川内まごころ文学館」などの調査も予定している。 文献資料の収集と、理論的な考察とを両輪としながら、文献と理論の交差する地点を、見出していく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
今年度に予定していた、研究調査を予定を変更して行わなかったので、旅費が計上されなかった。 次年度は、書籍の購入と資料の収集のために予算を計上する予定である。また、「川内まごころ文学館」への調査のため九州への旅費を計上する予定である。
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