研究課題/領域番号 |
25770096
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 鶴見大学 |
研究代表者 |
杉山 典子 (新沢 典子) 鶴見大学, 文学部, 准教授 (60454162)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 万葉集 / 古代日本語 / てにをは / 異伝注記 / 大伴家持 |
研究概要 |
万葉集収載の異伝注記の性格を明らかにすべく、異伝系本文に用いられる仮名の字母をデータ化し、本文系本文に用いられる仮名の字母と比較した。その結果、万葉集の巻1から巻4の異伝系本文に関しては、仮名書き傾向が強く看取され、特に奈良朝後期の歌人である大伴家持歌の仮名字母との共通性が見られることが判明した。奈良朝後期の仮名用例は大伴家持作歌に集中するため、それが家持特有の字母と言えるのか、あるいは当時一般に見られた用字なのかの判断については慎重を要するが、上代文献における特殊な語句が大伴家持と巻1から巻4の異伝系本文に共通して現れる点を考慮すると、異伝系本文と家持との関わり、具体的には、巻1から巻4の異伝注記を記したのが大伴家持であったことは動かないと思われる。 この点に関しては、現在、論文公表の準備中であり、本年度中に『和歌文学研究』に公表する予定である。また、調査の過程で明らかになった成果を援用して、本文系本文の表記から句の意味を改め、人麻呂作歌の歌の読み変えを図った(「「柿本朝臣人麻呂羈旅歌八首」の主題」『国文学叢録』笠間書院、2014.3)。 なお、仮名の使用と助辞に関わる意識とは不可分の関係にある。これまで奈良時代にはすでに助辞についての文法的自覚が確認されると考えられてきたが、その点誤りがあることを個人研究の成果である「「ものはてにを」を欠く歌の和歌史における位置づけ」(『萬葉語文研究』第9集、2013.10)において指摘した。今後、従来、詞と辞の区別に対する自覚と正訓字仮名交じり表記の成立との関係を個人研究の成果を踏まえつつ明らかにしていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
万葉集の注記に用いられる仮名の字母のデータ化と本文系本文の字母の差異についての調査は進んでおり、異伝系本文が、作歌時点とは異なる段階で記された校合の跡である可能性がほぼ確認できた。研究計画では昨年度中に、学術雑誌に論文公表する予定であったが、事前の研究会での発表の際、さまざまな意見を頂戴し、論を補強すべく、補足調査をする必要が生じた(具体的には、異伝系本文の語句・用字と他の歌の本文系本文との比較を中心に行っていたが、頂いた指摘は、異伝系本文の該当する本文系本文と他の歌の本文系本文との関係も行うべきだというものである)。結果、調査、加筆を行い現在に至っている。現在、投稿原稿の準備がほぼ完了しており、投稿前に専門家の意見を仰ぐ予定である。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度中に作成したデータ集成から、本文系本文とは異なり、異伝系本文に独自に見られる文字について、文学作品以外の資料、具体的には、正倉院文書・木簡資料との共通性を調査する。また、異伝系本文の性格を明らかにすべく、異伝系本文が平安期以降に万葉歌として享受された例がないかを調査する。 既に、人麻呂集、伊勢物語をなど平安期の仮名万葉の一部についての調査を終えている。中間成果を、研究会飛ぶ鳥(2015.6)美夫君志会8月例会(2015.8)で発表し、専門化の意見をふまえて修正する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
購入する予定であった万葉集古写本の写真版が近々公開されるとの情報を得たので購入を控えた。 今年度中に公開されれば、万葉古写本の写真データ購入費用に充てたい。
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