万葉集は、木簡等の出土資料と並ぶ最大の古代日本語資料として資料的価値の高いものだが、現存写本は11世紀を遡らない。今年度は、11世紀以前の言語資料として、主として万葉集中に残る異伝注記の表記と表現に注目し、古代日本語表記史における位置づけを試みた。結果、 1.万葉集巻1~3収載の柿本人麻呂作歌に残る異伝注記の一部が、奈良朝に書き加えられたものである可能性を明らかにした。この成果は、学術雑誌へ投稿したが掲載が見送られたため、2016年度刊行の著書で公表する予定である。 2.万葉集巻10の異伝注記が、10世紀に流布した万葉集の面影を伝えている可能性について、赤人集や非仙覚本の訓と比較することで明らかにした(「赤人集と次点における万葉集巻十異伝の本文化」『上代文学』114号、2015年4月)。 3.また、表記の方法を調査する過程で次の万葉歌(③254)の解釈を改めた(「柿本朝臣人麻呂羈旅歌八首の主題―巻三・二五四番歌の解釈を通じて」『国文学叢録 論考と資料』、2014年4月、笠間書院)。
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