本研究は、室町時代から江戸時代前期に制作された縁起絵巻・掛幅絵の制作背景について検討し、これらの絵画を求めた民衆の生活と信仰の形態を明らかにすることを目的とする。特に、これまで行ってきた檀王法林寺および西寿寺所蔵の掛幅絵の調査・研究を継続しつつ、掛幅絵の背面にある結縁者名の整理と分類を進め、制作背景及びそれに付随して語り伝えられた説話や物語について検討し、民衆信仰の実態解明を目指す。今年度の資料調査については、新たに鳥取県の個人所蔵の「二十五菩薩来迎図」が浄土宗僧袋中(1552~1639)由来のものであることがその裏書からわかり、現在調べをすすめている。このほか、和歌山県橋本市得生寺や奈良県宇陀市青蓮寺など、中将姫説話・伝承に関わる寺院に所蔵されている絵巻および掛幅絵の調査を行った。今後も適宜調査を継続しつつ、研究成果をまとめていく。今年度は、資料調査のほか、前年度までに調査を済ませていた資料ついて、『説話・伝承学』26号に「幽霊からもらった杓子と駒の角―逆立ち幽霊譚の変奏―」という題目でまとめることができた。論考で紹介した資料(個人蔵)は、寛文元年(1661)刊『因果物語』上―7「下女死本妻ヲ取殺事付主人ノ子取殺事」で知られる逆立ち幽霊譚を想起させるものである。拙文では、この話が家の伝説として語り継がれてきた点に注目し、このような怪異譚が語れる場について検討した。現段階で調査中の諸資料についても、来年度以降、論考にまとめていく。
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