研究課題/領域番号 |
25770099
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研究機関 | 帝塚山大学 |
研究代表者 |
後藤 博子 帝塚山大学, 文学部, 准教授 (80610237)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 演劇上演記事 / 対馬藩宗家 / 藩政史料調査 / 土佐少掾 / 江戸古浄瑠璃 |
研究実績の概要 |
(1)地方芸能関係記録データの収集 1.[対馬藩宗家の藩政史料の調査報告]長崎県立対馬歴史民俗資料館と東京大学史料編纂所に所蔵される藩政の日記類を調査した結果、抽出した芸能関係記録について、元禄九年分の記事を翻刻紹介した。さらに、対馬歴史民俗資料館の史料調査を進め、①参勤交代の道中における観劇記録、②国元において小姓に人形操りを上演させている記事、③藩主の生母や側室が国元から湯治に出かけた際の観劇記録について、情報を収集した。 2.[臼杵藩・佐伯藩史料の調査]大分の臼杵藩と佐伯藩の史料について、翻刻資料を手がかりに芸能関係記録の収集を始め、現地調査を行って、原本確認を進めた。野郎歌舞伎の貴重な記事や、元禄期の江戸屋敷における演劇上演記事などを収集した。 (2)江戸古浄瑠璃の考証 元禄期江戸を代表する浄瑠璃太夫「土佐少掾」について三作品を取り上げ、創作にあたって軍記をどのように利用したかを考証した。『大職冠二代玉取』では主人公の人物造型と「恋」の展開へ『平家物語』の故事来歴をもとに、趣向化していることを明らかにした。次に『土佐日記』では、「身代わり」を描くクライマックスの場面で、『曽我物語』所載の故事が置き換えられ、軍記の本文も利用されていることを検証した。これらは故事来歴を利用した趣向化と捉えられる。後期の作品『源氏花鳥大全』では、合戦場面で『前太平記』の本文をほとんどそのまま利用している。この事例は、軍記の本文を切り貼りするような形での利用であり、江戸古浄瑠璃の作者にとって、軍記が創作の拠り所であったことが窺われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
地方の芸能文化形成において、都市の演劇文化が及ぼした影響に注目して研究を重ねている。特に対馬藩宗家では、国元で藩主が小姓に江戸浄瑠璃の操りを上演させている事例が認められ、今年度の調査では上演実態に関する具体的な記録を収集することができた。さらに、参勤交代の道中に大坂で芸能を観覧していた事例や、藩主の生母や側室が有馬や城崎へ湯治する際に大坂と京で長期滞在して観劇していた事例なども見出せたことから、対馬藩と海路で結ばれた大坂方面との関係という新たな視点を得ることができた。昨年度の調査で大和郡山藩と大坂の芸能との関係について手がかりを得たこととあわせて、考証が進んだことから、順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
(1)江戸古浄瑠璃絵看板と浄瑠璃本との関係について考証し、都市演劇文化の商品としての実態を明らかにする。 (2)対馬藩宗家の史料から抽出した上演記録について、引き続き翻刻紹介していく。 (3)大和郡山藩の藩主を中心とした大坂の芸能文化摂取の実態解明のため、『松平美濃守日記』の考証を進める。 (4)鳥取藩士森藤十郎「覚書」の検証結果をもとに、地方藩士の江戸における演劇文化享受の実態について報告する。
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