(1)地方芸能関係記録データの収集と分析 〔対馬藩宗家の藩政史料の調査報告〕長崎県立対馬歴史民俗資料館と東京大学史料編纂所に所蔵される藩政史料の江戸日記類を調査した結果、抽出した芸能関係記録について、元禄十年から十四年までの記事を翻刻紹介した。さらに、小姓たちが江戸屋敷で人形芝居を習得し、国元で上演している事例に注目した。上演実態や小姓をめぐる状況、背景などについて、長崎県立対馬歴史民俗資料館の国元の藩政史料を調査し、関連する情報を収集して分析した。操りに携わっていた小姓の個人名を特定し、それぞれの江戸詰めの時期や帰国のタイミングなどを調査した。江戸屋敷で操りを習得した経緯について、具体的な分析を進めた。 〔大和郡山藩の藩主日記の調査〕大和郡山藩の藩主による「松平美濃守日誌」の記事について調査を進めた。特に国元で芸能を稽古している事例について注目して分析し、演劇史における位置づけを行った。人形浄瑠璃の初演時期の特定にもつながった。 (2)近世奈良の文化形成に関する調査─江戸時代の奈良の文化形成について、芸能と観光文化の両面から調査した。「義経千本桜」や「妹背山婦女庭訓」といった奈良を舞台として描かれる人形浄瑠璃作品で、初演当時の近世奈良の文化がどのように表現されているかを分析した。特に「義経千本桜」には観光地化した吉野の実態や、大和郡山の源九郎狐の伝承などが反映されている事例が認められる。その成果の一部は公開講座で発表した。
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