研究課題/領域番号 |
25770101
|
研究機関 | ノートルダム清心女子大学 |
研究代表者 |
木下 華子 ノートルダム清心女子大学, 文学部, 准教授 (10609605)
|
研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | 方丈記 / 発心集 / 無名抄 / 和歌 / 鴨長明 / 源家長日記 |
研究実績の概要 |
本年度は、特に『発心集』と『方丈記』についての作品研究を進めた。 『発心集』については、「『発心集』の泣不動説話」(『清心語文』16号、2014年9月)において、『発心集』板本・神宮文庫本に載る泣不動説話を取り上げて分析し、『発心集』の意図を明らかにした。泣不動説話は三井寺という特定の宗教空間の内部で発生し、それが宣伝とともに外部に流布したものであり、その流布の過程において説話の形態に様々な変化が見られる。そのような泣不動説話の文学史の中に『発心集』を位置付けると、以前のものに比べ、母子の情愛に説話の焦点が結ばれていることが明らかであり、それは筆者長明の意図的な改変あるいは選択だったと考えられる。さらに、『発心集』のような形の泣不動説話が成立する背景については、同時代に一世を風靡した安居院流の唱導が母の恩愛を重視する説法を行っていたこととの関連を指摘した。 『方丈記』については、「『方丈記』の辻風」(鈴木健一編『天空の文学史 雲・雪・風・雨』、三弥井書店、2015年2月)を著し、治承四年(1180)4月に平安京を襲った辻風(=竜巻・旋風)を取り上げて、作中における風の表現から、平安から鎌倉時代へ移り変わる激動の時期と荒ぶる風の関係を考察した。とある事件や災害の記録が、人々の記憶の中で時代を象徴するものへと成長し、それがどのように表現されるのかを解き明かすものである。 また、これらの論考や昨年度までの研究成果も併せて、単著『鴨長明研究──表現の基層へ──』(勉誠出版、2015年3月)を出版した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、『方丈記』『発心集』の研究を大きく前進させ、論文のみならず、単著という形で公表することができた。また、『源家長日記』については、すでに作成した注釈書(私家版)をもとに、論文の投稿を待機している。以上の理由により、研究の進捗状況としては、おおむね順調であると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、『高倉院厳島御幸記』『高倉院昇霞記』に焦点を当てて、表現分析をもとに作品の方法・構想を明らかにする。これらの作品については、歴史史料との比較を通して、行事・体験といった出来事が、和文の「記」という作品形態に変容していく様相を掬い取ることが可能である。出来事が記録という次元を超えた表現性や象徴性を獲得して和文の「記」になる様、それを生み出す作者の構想や時代性を、「記」を作り上げる言葉・表現から読み解いていく。
|