研究課題/領域番号 |
25770102
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研究機関 | 川村学園女子大学 |
研究代表者 |
森田 直美 川村学園女子大学, 文学部, 講師 (10552945)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 平安朝文学 / 古注釈 / 有職故実 / 一条兼良 |
研究実績の概要 |
平成26年度は、一条兼良、およびその事績に影響を受けた人物の事績を中心に、文献調査、及び論考発表(含 発表準備)を行った。 まず、『うつほ物語』に見える「紫」をめぐる贈答歌について、紫の染色や染料の特性に照らし合わせ、更にいくつかの有職文献を探ることで、従来解釈に難のあった点を改善した。本論考は、2014年5月発刊の、『王朝文学を彩る軌跡』(小山利彦氏編著、武蔵野書院)に収載されている。 また、『古今集』収載歌に見える「紅のふりいづ」という表現について、中世・近世期に成立した、注釈書や有職故実書の染色に関する記述を頼りに、フィールドワークの成果も踏まえ、「ふりいづ」の実相解明を試みた。この成果は、平成27年度5月の和歌文学会例会(於学習院大学)において発表予定であり、口頭発表後に、いずれかの媒体へ脱稿論文を発表する所存である。 また、『源氏物語』浮舟巻に記される「卯槌」に関して、一条兼良が呈した注釈の批判的再読を試みている。年中行事や生活様式、風俗風習に関する注釈の中で、兼良の説は特に偏重される傾向があるが、この考察を通して、兼良説偏重への危険性を示したい。更に、中世・近世期の多くの注釈書、考証書を先入観なく検討材料に用いることの重要性や有効性を示すことを目標とする。加えて、この論考は、兼良が息子・冬良に向けて残した有職の秘伝書をも考察材料として用いており、平成27年度に予定している、肖柏や一条冬良の事績への兼良の影響に関する研究を視野に入れた内容となっている。なお、本論考は、平成27年度中に、いずれかの学術雑誌へ投稿予定である。 文献調査に関しては、天理大学図書館所蔵の一条兼良の貴重な書入れを含む『江次第鈔』などを中心に行った。『江次第鈔』は、兼良の有職故実学や源氏学を知る上で非常に重要な文献である。調査結果は、27年度の兼良およびその周辺人物の有職学研究に反映する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該研究は、平安朝文学に関する有職故実書・考証書の内、中世・近世期に成立したものを対象とし、その調査研究と、平安朝文学読解への活用を、主な課題としている。 全体として26年度は、一条兼良の事績研究、および近世期の有職家による事績研究と、それを用いた平安朝文学読解の実践を良好な速度・内容で推進できた。 「研究実績の概要」に記した通り、中世・近世期の書物を用いて、平安朝和歌と染色との関係性を強く感じさせる、『うつほ物語』の紫を媒介とした作中贈答歌や、平安朝和歌に散見する「紅のふりいづ」という表現の、注解の問題点を検討し直し、従来曖昧であったこの表現の理解を、ほぼ確定させる成果を得たと考えている。 また、当該研究の中核のひとつである、現代研究に見える一条兼良の有職学偏重に警鐘を鳴らすという目的に対しても、「研究実績の概要」に記した「卯槌」に関する論考を通して推し進めることができると考える。 上記の内、「紅のふりいづ」と「卯槌」の検討は、26年度中に成果を発表する段に至らなかったが、27年度中に行う目途がたっており、おおむね順調に研究を進展できていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
27年度は、当該研究の中核である一条兼良、およびその影響を強く受けた、一条冬良や肖柏、三条西実隆らの事績調査、研究を中心に進めてゆく。また、その事績研究の成果を踏まえた、平安朝文学読解の実践を試みる。具体的に予定している研究内容は以下の4点である。 ①『源氏物語』や、後代の源氏絵に見える、東京錦、高麗縁の畳といった調度品が作品の中で示す機能についての研究。 ②一条兼良の有職故実書・『源氏物語』古注釈書の批判的再読。 ③一条兼良の学問が、一条冬良、肖柏、三条西実隆らに指示されたことで信頼性を増し、強い影響力を保持して近世・近代・現代の研究に流れ込んでいることを示し、その偏重の危険性に対して、論考発表を通して注意を喚起する。 ④染色・染料の特性と、平安朝和歌表現との関係性についての研究。
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次年度使用額が生じた理由 |
26年度に複写予定であった文献の複写時期を、27年度に移行したため。
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次年度使用額の使用計画 |
中世・近世期に成立した有職故実書の文献複写費として、27年度中に使用する。
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