研究課題/領域番号 |
25770103
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 北見工業大学 |
研究代表者 |
笹川 渉 北見工業大学, 工学部, 准教授 (10552317)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | イギリス文学 / イギリス詩 / スチュアート朝 / 王党派 / クリスマス |
研究概要 |
当該年度の成果は、主にスチュアート朝におけるイエス生誕詩についての一次資料と二次資料を読解し、その内容の一部を、研究代表者の所属学会である十七世紀英文学会で「王党派の詩と内乱期の祝祭--Martin Lluelynを中心に」のタイトルのもと発表したことである。本発表の意義は、あまり注目されてこなかった十七世紀の王党派詩人のLluelynが内乱期に書いたイエス生誕詩に着眼し、Robert Herrickなどの王党派詩人の作品と比較することで、1630年代では祝福されるものとして描かれていた御子の生誕が、血なまぐさい描写で提示されている特異性を浮き彫りにしたことにある。さらに、世俗の王を救世主として讃えていた宮廷の祝祭が、内乱によってその開催される場所が失われると、国王と重ねられていたイエスが民衆レベルの祝祭を司る者として、姿を変えて表象されていることを指摘した。 また、上記発表以外の研究成果として以下の3点を挙げる。まず、大英図書館所蔵の手稿本「Add MS 15227」に収められているマイナーな王党派詩人、Thomas Freemanのチャールズ2世生誕の作品を読解し、同時代の詩人Richard Corbettらがチャールズ2世の生誕を描く際に用いているレトリックとの共通点を発見した。2点目は、スチュアート朝におけるイエス生誕をテーマとした作品群を概観するために、割礼祭と公現祭を扱った作品群や、宮廷の祝祭である仮面劇も議論の俎上にあげたことである。最後に、民衆レベルの祝祭を促したのがチャールズ1世による『娯楽の書』の再版であったことを踏まえ、祝祭日のあり方を王党派、ピューリタンの両陣営が議論したパンフレットの読解を行った。そして、1630年代後半から40年代にかけて激しい論争の対象となった祝祭日のあり方が、イエス生誕詩というテーマと密接に関係していることを追究した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国大英図書館に赴き手稿本の資料調査を実施するとともに、スチュアート朝におけるイエス生誕にまつわる作品群とそれに関する批評を読み進められている。計画書に記載した王党派の詩人Ben Jonson, Robert Herrick, George Herbert, William Cartwright, Richard Franshwe, Martin Lluelynだけではなく、Richard CorbettやThomas Freemanといったマイナーな詩人の作品を読解することで、本研究のテーマであるイエス生誕詩の政治的多様性を探っている。本研究を推進するために、EEBO (Early English Books Online) のデータベースを使用できる環境に赴き、現在書籍化されていない同時代のパンフレットや作品を閲覧し、イエス生誕のテーマが繰り返し政治的に利用されていたことが発見できた。 研究目的の達成度として順調に進行できなかったのは以下の2点である。1点目は、中世の叙情詩に見られるイエス生誕詩の読解と、その特質に関する研究がやや遅れていることである。2点目は、祝祭日に含まれるクリスマスを考察するために、祝祭日の過ごし方をめぐる当時の論争にも言及をする必要性が生じ、研究計画には記載できなかった文献を読む必要性から詩の読解がやや進まなかったことである。 しかし、研究目的に記載した、イエス生誕詩が宗教詩というジャンルにおさまらないことを確認し、スチュアート朝における政治的な重要性と変遷を辿ることができているという点で、おおむねに順調に進行していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
当研究の最終年度となる本年度は、前年度に収集した一次資料と二次資料の読解を引き続き行い、新たに適宜資料採取した文献の読解と論文の執筆を行う。本年度の文献読解では、ピューリタンの立場にある詩人、John MiltonやGeorge Witherらにも着眼し、王党派やカトリックの立場の作家が書く作品との差異を考察する。また、前年度収集した王家の子女生誕を祝ったアンソロジー等のラテン語文献も読みすすめながら、イエス生誕詩に見られる言葉遣いの共通点や特異性を追究する。加えて、手稿本を読む際には、その手稿本における文脈という観点から、政治的なイエス生誕詩を選択して書く筆記者の意図を読み取ることができれば、その理由も考察していきたい。 同時代の文献収集には、前年度に引き続きEEBOを利用できる慶應義塾大学三田メディアセンターに赴く。また、大英図書館での資料調査は手稿本という性格のため、筆記と読解に予想以上の時間がかかることが分かったため、イギリスで昨年度の調査の継続をするために手稿本を閲覧・調査し、論文として発表する際に、チャールズ2世生誕と救世主イエスを重ねるレトリックが見られる資料の一端を提示できるようにする。 投稿予定の論文としては、本年度9月末が締め切りとなっている十七世紀英文学会の論集を最初の目標とする。さらにその後の進捗状況も含め、翌年度5月に締め切りとなる日本英文学会の学会誌等への投稿を目指して、最終的にまとめる計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度に当研究で必要となる二次資料The Ashgate Research Companion to Popular Culture in Early Modern England と Catholic Reformation in Protestant Britain(どちらもAshgateから2014年7月に刊行予定)のための購入費にあてるため。 上記2冊の二次資料とともに、他の一次資料、二次資料の書籍を購入することで計画的に使用する。
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