研究課題/領域番号 |
25770104
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
猪熊 恵子 東京医科歯科大学, 教養部, 准教授 (00508369)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | ヴィクトリア朝小説 / 語り手の声 / 19世紀印刷文化 |
研究実績の概要 |
平成27年度の翻訳完成を受け、平成28年度はもう一つの重要課題であった博士論文の執筆を進めるべく、ディケンズの初期中期作品に焦点を絞り、その語りの内部に見られる「声」と「文字」の相克に着目した。作品精読の過程で、伝統的批評史のなかで否定的観点から捉えられてきたいくつかの項目について再考を試みた。 例えば最初期の作品『ピックウィック・ペイパーズ』では、「9つの挿話」を取り上げた。この挿話は、小説の本筋の展開と密接に接続されておらず、ランダムなペースで唐突に挿入されるため、多くの場合、ディケンズの作家としての若さ/未熟さを示すものとして片づけられる。しかし本論文では、これらの挿話がいずれも、ピックウィック・クラブのメンバーたちの前で、語り手がメモ書きを参照しながら音声的に話を再生する構造を有している点に注目し、手書きのメモと語り手の音声の融合によってまれる語りが、ピックウィック・メンバーの筆記するノート、そのノートをもとにしたクラブへの報告書、その報告書をもとにしたボズ(ディケンズ)による語り、という複数の層を経ることによって、最終的に『ピックウィック・ペイパーズ』という小説テクストの表面に浮上してくる点を明らかにした。 同様に、『骨董屋』『マーティン・チャズルウィット』などの作品についても、一つ一つ精読しながらこれまでの批評を見直し、あわせてヴィクトリア朝の出版のあり方、出版社と作家のやりとり、一般読者と作家の関係性などと関連付けながら考察した。 これらの考察は、すでに全八章からなる博士論文の本論としてほぼ完成しており、最終的な詰めの作業を経て、平成29年夏に東京大学に提出される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本プロジェクトの大きな二本の柱としていた翻訳と博士論文のうち、前者はすでに完成しており、後者もほとんど最終段階に入っているため。
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今後の研究の推進方策 |
来年度(平成29年度)の夏に博士論文を東京大学に提出する。また残りの半年間を使って、声と文字の複雑な交錯を見せるディケンズ作品が、映画その他の異なる媒体においてどのように翻案されてきたのかを考察する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度より引き続き、すでに絶版となった図書や、貴重本など、定価のない書籍を海外書店からネット購入することが多く、使用額を明確に計算することが難しかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
書籍やハードディスクドライブなど物品費として使用する。
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