研究課題/領域番号 |
25770105
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
市橋 孝道 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (70613397)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | イギリス文学・文化 / 19世紀 / ヴィクトリア朝時代 / ドイツ文学・文化 / ゲルマニズム / コッツェブー / E.T.A.ホフマン |
研究実績の概要 |
本研究は、19世紀中頃の英国大衆文化に浸透していたドイツ文化の影響を解き明かすことを目的としている。今年度はこの目的において最も重要であると思われる劇作家Kotzebueの資料を収集し、それらの読み込みに多くの時間が費やされた。Kotzebueの劇作は、題材や才能が枯渇しつつあった18世紀末の英国演劇界に、翻案として流入し、はじめは民間レベルの観劇者に、そして徐々に当時の英国人作家や知識人たちにも認識され始めていった。例えば、彼の劇作Das Kind der Liebeは、英国の女性作家Elizabeth Inchbaldによって翻案され、Lovers’ Vowsとして英国の舞台で上演され、好評を博していたという。この翻案劇は英国小説家Jane Austenが発表した小説Mansfield Parkの中で重要な役割を果たしている。なぜなら、この作品は10代で未婚の登場人物たちが領主不在の期間中に娯楽として演じるには不適切な内容であり、脚本に対する彼らの反応は、人柄や性格をはかる指標となり、小説全体の物語展開を大きく左右しているからである。Kotzebueの代表作とも言えるMenschenhass und Reue は、Benjamin TompsonによってThe Strangerというタイトルで英語に翻案され、英国の舞台でも好評を博したと言われている。この作品の上演は、記録だけではなく英国の小説家W.M. Thackerayの小説The History of Pendennisにおいても描写されているが、この小説においては原作である劇作の出来栄えが酷評されている。このように上記2例を考察しただけでも、Kotzebueの劇作は英国の大衆演劇場で上演されることはあったものの、作品固有の芸術的価値に関しては英国の批評家や作家などから厳しい目が向けられていたことが分かるのである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プロジェクトの2年目に当たる今年度は、予定していた通り、研究対象とすべきドイツ人劇作家August von Kotzebueの資料を収集し、それらの資料を読み込むことに専念できた。これまでの研究動向をふまえつつ、全く新しい作家ならびに作品を扱うに際し、多少予定以上の時間を要している部分も否めないが、良い意味で言語(ドイツ語)や作家固有の文体に慣れ、3年目以降に研究を加速させられると期待している。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究推進方策としては、研究対象とすべき作家と作品に関するより多くの情報や資料を集め、資料の精読時間を加速させることにより、一つの研究成果としてまとめ上げられるよう研究を継続させていく。 また研究領域に関連する国内外の学会や研究会などに参加することにより、他の研究者との情報交換や最新の研究動向にも目を配りながら、研究の意義や目的の再確認をしていきたいと考えている。
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