本年度は、Dictionary of National Biographyにおける女流作家の描かれ方とそのジェンダー的特徴を明らかにすることを目的として研究を行った。 本年度の前半は資料収集を行った。特に夏には渡英し、大英図書館で18~19世紀の雑誌・新聞を中心とした資料収集を行った。 本年度の後半は、収集した資料を分析し論文を執筆した。論文では、Dictionary of National Biographyにおける主要執筆者の一人であったRichard Garnettによる女流作家の伝記記事を分析した。それを通して、Dictionary of National Biographyが家庭の天使や分離された領域といったヴィクトリア朝のジェンダー・イデオロギーを色濃く反映していることを明らかにした。また、同時に、この伝記辞典の編纂体制自体が当時の文学界と同様に男性中心主義であり、その辞典に収められた伝記記事では、性的二重基準が用いられ、女流作家は生来的に劣ったものとして描かれていることも明らかにした。尚、この論文は学術雑誌に投稿ずみであり、現在査読中である。 本年度は本研究の最終年度であり、本研究の目的であったDictionary of National Biographyのジェンダー的特徴を個々の伝記記事を用いて例証することとその特徴における歴史的・社会的背景を明らかにすることは、上記の研究をもって達成できたと考える。
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